実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

36.三番手

 わたしにとって第二の家――――城の敷地は広大で、まだ行ったことのない場所の方が断然多い。
 というか、これまでは行動が極端に制限されていたから、殆ど未知の場所と言っても良いぐらいだ。

 美しい噴水庭園や季節の花々が咲き誇る温室、歴史ある美術品が保管されている宝物庫。行ってみたい場所は沢山ある。


 今はその内の一つ、騎士達の練武場に来ている。
 理由はシンプル。なんと、エメットが正式に騎士団に入団したからだ。


「おじさん達に反対されなかった?」

「うん。寧ろ貴族嫌いの俺が一体どういう心境の変化だ?って驚いてたし、喜んでたよ」


 気まずそうに微笑むエメットは何だか可愛い。出来の悪い弟を見ているような気分だ。


「そっか。喜んでもらえたなら良かったね。
まあ、完全な縁故採用なんだし、早々に追い出されないように頑張ってよね!」

「分かってるよ」


 平民出身で、元々騎士志望だったわけでも無いエメットが、こんなに早く入団できる筈はない。そこは当然、わたしの幼馴染っていうアドバンテージと、アダルフォの推薦の力が大いに働いている。
 だけど、わたし達に出来るのはここまで。入団以降は、本人が自分で頑張るしかない。すぐに騎士としてやっていけるわけもないから、訓練を受けながら下働きをすることになっている。

 練武場に着くと、たくさんの年若い騎士達が一生懸命剣を振っていた。少し離れたこちらにまで、熱気と汗のにおいが伝わってくるほど。普段、涼しい顔をした貴族ばかり見ているので、何だかとても新鮮だ。


「ライラ様、このようなむさ苦しい場所、わざわざ来ずとも良かったのですよ?」

「ううん。ずっと来てみたかったの」


 約ひと月の里帰りを経て、わたしの行動制限はようやく殆ど解除された。
 アダルフォや侍女達を連れていれば、城内の何処へ行っても構わない。城外にも、月に一、二回ならば出て良いとお達しがあった。折角処遇が改善されたんだし、私室に引き籠ってなんかいられないもの。


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