実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

38.慕

 求婚。
 結婚を申し込むこと。


(求婚……求婚かぁ…………)


 思えばこれまで、誰からもハッキリと『結婚してほしい』と言われたことは無かった。

 まぁ、相手はわたし――――一応この国の姫君なのだし、勝てる見込みのない戦には手を出さないっていう理論は分からなくもない。

 だけど、おじいちゃんのいう通り、公にも婚約者候補として名の知れたランハートからもバルデマーからも求婚されていないのは、如何なものだろう? ちょっと――――いや、かなり問題かもしれない。


「ねえ、エメット。わたしってそんなに魅力ない?」


 すっかり習慣付いた騎士団への定期訪問。休憩中のエメットを呼び出して尋ねれば、彼はキョトンと目を丸くし、やがて声を上げて笑った。


「何だよ。おまえ、そんなこと気にしてたの?」

「そんなこと!? 人が真面目に悩んでるのに、笑うなんてひどくない!?」


 同意を求めてアダルフォを振り返れば、彼は真剣な表情でエメットを睨みつける。


「控えろ、エメット。ライラ様に対して不敬だぞ」


 威圧感に背筋が震える。

 しまった。同意を求める相手を間違えた。
 アダルフォは今にもエメットのことを切りつけそうな雰囲気を醸し出してる。幼馴染としての他愛ないやり取りのつもりだったけど、真面目な彼には通用しなかったみたい。


「待って、アダルフォ。そんなに真剣に受け取らないで。半分は冗談だから」


 フォローを入れながら、わたしはこっそりとため息を吐く。
 エメットと会話するのは結構注意が必要だったりする。ナチュラルに失礼な発言をぶちかますからだ。


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