実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
 ランハートは答えつつ、困ったような笑みを浮かべる。

 ええ、そうでしょうとも。本人に嘘を吐いているつもりはない。
 ただ、完全に忘れているってだけで。


「それでは、今日はそろそろお暇します」


 彼は立ち上がり膝を突くと、わたしの右手をギュっと握る。それから手の甲に触れるだけのキスを落とし、蕩けるような笑みを浮かべた。


「正式に、あなたの婚約者になれる日が楽しみです」


 思わぬセリフ。息を呑むわたしに、ランハートは目を細める。


「わ……分かってるの? わたしの婚約者になるってことは、あなたも王族として、わたしの婚約者として、相当数の公務を引き受けるってことなんだからね? 今みたいに遊んで暮らせるわけじゃないのよ?」


 大体、即位と同時に婚約を発表するのだって、民を安心させるためなんだし。彼にはその自覚があるのだろうか? 自分で選んだ人とはいえ、ちょっと心配になってくる。


「分かってますよ。それでも、楽しみだと思います」


 嫌味なくらい整った顔。醸し出される甘い雰囲気に首を振る。
 口先ばっかり。本当は大して楽しみじゃないに違いない。


(プロポーズするって言ってた癖に)


 王族の結婚に恋愛感情は必要ない。
 わたしだって、ランハートが好きで堪らないから彼を選んだわけじゃないし、あっちだってそう。わたしが好きで配偶者に立候補したわけじゃない。
 だから、忘れたところで仕方ない。仕方がないって思っているんだけど。


(わざわざ時間、作ったのになぁ)


 何でもない振りをしながら、わたしは彼の後姿を見送った。
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