実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「お帰りなさいませ、姫様」
私室に戻ると、エリーをはじめとした侍女達が温かく出迎えてくれる。
努めていつもどおりの笑みを浮かべつつ、わたしはソファに腰を下ろした。
「ただいま。悪いんだけど、お茶を運んでくれる? 一息つきたいの。できたら、少しの間一人にしてもらえると嬉しいんだけど」
次の予定まで、少しだけど時間がある。一人きり、誰にも見られない場所で心の整理をさせてほしい。
そう思っていたら、侍女や文官がそっと顔を見合わせた。
「実は、姫様がお出かけになってすぐ、バルデマー様がいらっしゃいまして。控えの間で姫様のお戻りをお待ちだったのですが」
「バルデマーが?」
バルデマーの名前を聞くのは随分と久しぶりのこと。以前はわたしの婚約者候補として、よくご機嫌伺いに来ていたし、彼が『待つ』と言うなら無碍に帰すわけにはいかなかったのだろう。
「勝手なことをして申し訳ございません。バルデマー様には事情をお話しし、また改めて来ていただきましょう。元々お約束をしていたわけではございませんし」
「ううん。せっかく待っていてくれたんだもの。部屋に案内してくれる?」
最後に会った時、かなり厳しいことを言ったから、これでも結構気にしていたのだ。ようやく会いに来てくれるようになったのだし、関係は良好に保っておきたい。
たとえわたしの婚約者にならずとも、彼は国にとって大事な人材には違いないのだから。
「承知しました」
エリー達がそう言って、部屋から一斉に下がっていく。
アダルフォは一瞬だけもの言いたげな表情をしたけど、わたしの気持ちを優先してくれたらしい。黙って部屋から出ていった。