実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
(疲れた)


 束の間の静寂が部屋を包む。
 バルデマーが来るまでの僅かな間ではあるけれど、部屋には今、わたししか居ない。
 そう思ったその瞬間、目頭がじんと熱くなった。どうやら気が緩んでしまったらしい。


(ランハートのバカ)


 心の中で悪態を吐く。
 ランハートの意地悪な笑みが脳裏にチラついて、たまらない気持ちにさせられる。


 違う。
 違うわ。
 馬鹿なのはわたしの方。

 別に、嘘を吐かれたわけじゃない。
 彼は出会ったときから正直な人だった。

 王族で、おじいちゃんの覚えもめでたくて。顔が広くて腹黒で、嘘は決して吐かない人。
 もしもわたしが『結婚以降も浮気をする?』って尋ねたら、ランハートはきっと『はい』って即答しただろう。

 わたしのことが好きだから求婚されたわけじゃないし――――っていうか、そもそも求婚すらされてないし。


(それでもわたしは未来の王様だから)


 国のために、最善の選択を重ねていく。
 これで良い。
 間違っていない――――そう思いつつ、涙が一筋頬を伝う。


 きっとわたしは、自分が思っていた以上に、ランハートのことが好きだったんだ。
 そして、それと同じぐらい、ランハートにもわたしのことを想ってほしいと願っていた。

 だからこそ傷ついた。
 傷ついてしまった。


(ダメだ。全然、止まりそうにない)


 どうか、誰も聞かないで――――
 わたしは声を押し殺して泣いた。
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