実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
 宣言通り、侍女たちは腕によりをかけてわたしのことを磨き上げた。ドレスに合わせて髪を結い上げ、いつもよりも念入りに――けれど自然な化粧を施す。
 シンプルかつ上品なジュエリーをさり気なく身につけたら、ようやく完成。わたしはランハートに引き渡された。


「ああ、良いですね。僕がオーダーした通り。最高に綺麗です」


 ランハートがそう言って微笑む。眩しげに細められた瞳に戸惑いつつ、わたしはそっと顔を背けた。


「ねえ、こんな格好させて、一体どこに連れて行く気?」

「内緒です。そちらの方がドキドキするでしょう?」


 相変わらずの意地悪な笑みに、わたしはウッと言葉を失う。
 スマートに差し出された腕を取り、わたしはランハートとともに歩き始めた。


***


(まさか、こんな形でランハートと対峙することになるとは……)


 そりゃあ、きちんと話をする気でいたけれど、こんなに早いなんて聞いてない。
 しかも、馬車に揺られて二人きり。目的地も教えてくれないから、どのぐらい掛かるかもわからない。

 肝心のランハートは、本気で何事もなかった表情をしているし。
 まあ、真偽の程はわからないし? 彼にとってはあれが日常茶飯事だったのかもしれないけど。


 ガタンゴトンと馬車が揺れる。車窓から夜空を見上げると、星が一筋流れた。

 わたしはもう、前みたいに外出を禁じられていない。
 けれど、こんな風に城外に出るのは久しぶりだった。

 清々しい空気を吸い込み、ほんの少しだけ背筋を丸める。


(なんだかすごく、気が抜けた)


 王太女になるって決めてから、はじめの頃の何倍も頑張るようになったんだってこと、すっかり忘れていた。知らず知らずのうちに、気を張ることが常態化していたみたい。城を出て気づくなんて、思いもしなかったけど。


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