実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「今日は姫様に焼き菓子をご用意しましたの。お口に合えばよいのですが」

「えっ……? シルビアが自分で準備したの?」

「はい! わたくし実は、お菓子を作るのが趣味なのです。無心になって手を動かしていると、嫌なことが忘れられますし、甘いものを食べると疲れも取れますでしょう? 
城に連れてこられてしばらく経った頃、わたくしが自由にキッチンを使えるよう、クラウス殿下が取り計らってくださったのですわ」


 そう言ってシルビアは嬉しそうに手を合わせる。わたしは目を丸くしながら、侍女達によって並べられたお茶菓子を見つめた。


(良いなぁ……)


 わたしだって、城に来るまでの間はそれなりに料理やお菓子作りをしていた。お母さんと一緒にキッチンに立つ時間はとても楽しかったし、幸せだった。二人で取り留めのないお喋りをして、何度も何度も摘まみ食いをして。『お父さんの分が無くなっちゃったね?』なんて言いながら二人で笑って――――。


「さぁ、姫様…………」


 促されるまま、わたしはシルビアのクッキーを口に運ぶ。ほんのりと甘い生地が、心に優しく溶け込んでいく。城のパティシエが作るものより質的には劣る筈なのに、何でかずっとずっと美味しい。まるで、わたしの欠けた部分を、そっと補ってくれるかのように感じた。


「――――――美味しい。すっごく美味しいわ、シルビア」


 言いながら、目頭がほんのりと熱くなってくる。シルビアは微笑むと、ゆっくりと大きく頷いた。
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