実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

14.貴婦人の嗜み

 王位継承者が修めるべき学問は多い。礼儀作法や語学に文学、歴史、伝統文化、法律や乗馬、兵法に剣技なんかも学ぶ。
 それだけでも十分大変なのに、わたしの場合は女だから、妃――――高貴な女性の嗜みなんかも追加されてしまった。


「ねぇ……刺繍、本当に出来るようにならないといけないの?」


 右手に針、左手に触り心地の良い布を手に、チラリと顔を上げつつわたしは尋ねる。


「もちろんですわ。貴族の――――王族の女性として、刺繍は出来て当然。姫様にもしっかり覚えていただきます」


 講師の女性がそう言ってグッと胸を張る。おじいちゃんよりも少し若いぐらいの、年配の女性だ。美しい刺繍の施されたベールを被っている。


「その……大事な嗜みだっていうのは分かっているの。分かっているんだけど…………」


 昔からわたしは、超がつく程の不器用だった。紙を綺麗に折るとか、切るとか、線を綺麗に引くといったことすら上手にできない人間が、美しい刺繍を作り上げられるはずはない。一針指す毎に絶妙に布がズレ、糸がもつれ、思ったような模様に育ってくれないのだ。
 オマケに大層大雑把な性格をしているもので、細かく刺さねばならないと分かっているのに、一直線に大きく縫ってしまいたくなる。繊細さが売りの刺繍には向いていないのだ。


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