実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
 とはいえ、一朝一夕で作品が仕上がるわけもなく、また刺繍の講義を他より多く取ることもできない。だからわたしは、空き時間を刺繍のために充てることにした。



「姫様、ここはこう縫った方が仕上がりが良くなりますわ」


 そう言って微笑むのはシルビアだ。
 しばらくは一人で黙々と縫っていたものの、数日で心が折れかけた。そんな時、事情を知ったシルビアが「一緒にやろう」と声を掛けてくれたのだ。
 シルビアは可憐な見た目に違わず、刺繍がとっても上手だった。わたしの数倍の速さでチクチクと針を動かし、あっという間に作品を仕上げていく。習い始めたのは最近だし、比べるのもおこがましいって分かっているけど、羨ましいなぁなんて思ってしまう。


「……っと、こう?」


 言われた通りに出来ているかイマイチ自信が持てないまま、わたしは大きく首を傾げる。


「…………少しだけ貸していただけます?」


 シルビアはそう言って優しく微笑むと、正しい縫い方を実演してくれた。感嘆のため息を漏らしつつ、わたしはひっそりと眉間に皺を寄せる。シルビアから布と針を受け取り、彼女と同じように手を動かしてみるけど、やっぱり何かが違っている。めげずに数針縫ってから、額に滲んだ汗を拭った。


「姫様は案外負けず嫌いですよね……」


 その時、アダルフォが半ば呆れたような表情でそんなことを言った。


「えっ……そう? そんなことないと思うけど」


 ムッと唇を尖らせつつ、わたしは小さく首を傾げる。
< 72 / 257 >

この作品をシェア

pagetop