実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「その…………バルデマーは欲しくないの?」


 言いながら、わたしはハタと口を噤んだ。頭の中で己の言葉を反芻した後、頬が真っ赤に染まっていく。


(これじゃあまるで、欲しいって言われたかったみたいじゃない)


 両手で頬を覆いつつ、身体ごとぐるりとそっぽを向く。すると、バルデマーはクスクスと楽し気に笑い声を上げた。


「それはもちろん……喉から手が出るほど欲しいと思っておりますよ? 他ならぬ、姫様の作品ですから。
ですが、そうと口にしてしまっては、姫様にプレッシャーをお掛けしてしまいます。私の一番の望みは、姫様を幸せにすることですから」


 そう言ってバルデマーは私の前に跪く。恭しく手を握り、ゆっくりと首を垂れるその様に、胸がドキドキと高鳴った。


(分かってる筈なのに……)


 バルデマーは本当は、わたしのことを好きなわけじゃない。わたしを大事に想っているわけでも無い。わたしの後にある玉座を望んでいるだけだって。

 それでも、こんな風に優しくされて、お姫様扱いされて、綺麗な笑みを見せられて――――何とも思わない女は居ないと思う。


「…………余裕があったらバルデマーの分も作るわ」


 気づけばわたしは、そんなことを口にしていた。バルデマーはほんのりと目を見開き、次いで嬉しそうに細める。


「ありがとうございます。とても――――とても楽しみにしております」


 それは彼が普段浮かべているお人形みたいな表情じゃなく、屈託のない年相応の笑みだった。その瞬間、バルデマーに握られたままの手のひらが熱を帯び、わたしは思わず息を呑む。


「……っ、出来栄えは期待しないでよね」


 そんな憎まれ口を叩きつつ、わたしは唇を尖らせる。なおもニコニコと微笑み続けるバルデマーに、わたしもつられて笑うのだった。
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