英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
 ティーゼはしばらく考えた後、「オーケー」と答えた。

「どうせなら、そこまで行こうと思っていたんだ。ちょっと見て回りたいし、帰りは自分でなんとかするよ」
「あら、珍しいわね。何よ、しばらく帰ってこないつもり?」
「お祝いに便乗して、ゆっくり楽しんで来ようかと思って。この国は広いけど、もしかしたら隣国にいい土地もあるかもしれないし」

 ティーゼは、冗談口調でそう答えた。

 すると、マリーがギョッとしたように目を剥いて立ち上がった。

「え、嘘。冗談よね? あんた、ここを出ていく気なの?」
「どうしたの? 出て行くなんて言ってないけど、驚きすぎじゃない?」
「だって、なんかまるで帰ってくる気がないみたいな……」
 
 彼女が毒気を抜かれたような顔をするので、ティーゼは怪訝に思いながらも「マリーは知らないの?」と取り繕った。

「このお祭り騒ぎの間は、どこもかしこも割引サービスが太っ腹なんだよ。今贅沢しないでいつするのッ」
「そういえば、あんたって昔から食い気が勝ってたわね……」

 この酒豪め、とマリーは忌々しげに椅子に座り直した。
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