英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
ティーゼが悩ましげに小首を傾げると、クリストファーが目元を和らげて、彼女の頬にかかった髪をそっと後ろへ撫で梳いた。普段から親身に接されているティーゼは、こういう女性扱いを自然とやってのける幼馴染だもんなぁ、と場違いにも改めて感心してしまった。
「それに、そのへんのドラゴンでも掴まえれば、王城までそんなにかからずに戻れるから」
時間稼ぎのように、クリストファーが静かな声色でそう言った。ゆっくりと髪から離されていった彼の手の指先が、するり、と頬を撫でていった。
また、うっかりあたってしまったのだろう。
これまでの彼とのやりとりを思い出して、ティーゼは、くすぐったく感じた頬に手を当てて揉み解した。すると、クリストファーがにっこりと笑って「ごめんね」と言い、「じゃあ、またね」と踵を返した。
歩き出しながら、クリストファーが、ティーゼには聞こえない低い囁き声をこぼした。
「宰相であろうが、ティーゼに手を出したら殺すよ。――ひとまずは、姫との噂の出所を潰す」
そんな物騒な声を耳にしたルチアーノは、「人間族の魔王ですか」と口の中で呟いた。思わず、英雄を取り囲んでいるであろう人間側の事情を想像し、らしくなく同情してしまった。
「それに、そのへんのドラゴンでも掴まえれば、王城までそんなにかからずに戻れるから」
時間稼ぎのように、クリストファーが静かな声色でそう言った。ゆっくりと髪から離されていった彼の手の指先が、するり、と頬を撫でていった。
また、うっかりあたってしまったのだろう。
これまでの彼とのやりとりを思い出して、ティーゼは、くすぐったく感じた頬に手を当てて揉み解した。すると、クリストファーがにっこりと笑って「ごめんね」と言い、「じゃあ、またね」と踵を返した。
歩き出しながら、クリストファーが、ティーゼには聞こえない低い囁き声をこぼした。
「宰相であろうが、ティーゼに手を出したら殺すよ。――ひとまずは、姫との噂の出所を潰す」
そんな物騒な声を耳にしたルチアーノは、「人間族の魔王ですか」と口の中で呟いた。思わず、英雄を取り囲んでいるであろう人間側の事情を想像し、らしくなく同情してしまった。