英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
引き受けた仕事の先で
 ティーゼは、少しのお金と細い剣を持ち、パレードの行進に参加していた花馬車の荷台に乗り込んで隣町を超えた。

 花で飾り付けられた大型の馬車は、速度がゆっくりのため時間はかかったが、通い慣れたギルト支部に行くと、受付嬢のマリーに、珍しくも満面の笑顔で出迎えられた。

「ちょうど頼める人がいないか探していたところなのよ! お祭り騒ぎで、誰も仕事をしないんだもの。ついでだし、国境近くの町まで行ってみない? 行きだけなら、列車のチケットが余ってるからサービスしてあげるわよ!」
「……いつもなら『あんたに出来そうな仕事を探すのも大変なのよ』とか開口一番に言われるのに、この待遇は一体……?」
「素直に喜びなさいよ。帰りのチケットだって、これから何とか探して、サービスで付けてあげるわ」

 首を捻ったティーゼに対して、魔族であるマリーは、大きく尖った耳を上下に動かし、不満げに頬を膨らませた。二十歳も年上だとは思えない、可愛らしい怒りの表情だった。
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