高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい

 病室を出て、どっと溜息が出る。佐藤には困ったものだ。今回の尻を揉まれる行為は初めてだったが、佐藤はたびたびセクハラじみた発言や、女医にたいする暴言を吐いていた。看護師の間でも佐藤はセクハラをしているようで華も胸元をじーっと見られ続けたこともある。


「はぁ」


 医局についた華は自分のデスクに座りまた頭を抱えた。医者になることは小さい頃からの夢だった。小学二年生の頃に父親を癌で亡くした時、担当医だった先生がとてもよくしてくれたことを今でも華はよく覚えている。こんなお医者さんになりたい、と小さいながらにも思い華の夢へと変化した。そして父親が亡くなって悲しんでいる時に励ましてくれたのが尊臣だ。医者への夢も尊臣が応援してくれたから、男性恐怖症になっても小さな頃の思い出のおかげで乗り切ることが出来た。友達の力とは偉大だ。


 でもやっぱり、挫けそうになるときは何度もある。頑張れ、頑張れって自分に言い聞かせてきたけれど、今回は少し堪えるものがあった。じわりと目元が熱くなり、鼻の奥がツンと痛んだ。


「桜庭先生?」


 華の頭の上から優しい声が降り注いできた。
ハッと我に返った華はいそいで気持ちを立て直して顔をあげると、心配そうに華を見つめる尊臣と目が合った。


「高地先生……」
「体調は大丈夫? 俺、昨日緊急オペが入っちゃって桜庭先生の様子を見に行けなかったから心配で」
「き、昨日は本当にありがとうございました。でももう大丈夫なんで、ご心配お掛けしました」


 華はペコリと頭を下げ、顔を上げるとほっと一安心と顔に書いてある尊臣と目が合った。

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