高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい
「ならよかった。あの、さ。さっき看護師に聞いたんだけど、203号室の佐藤さんに色々言われたんだって?」
ガチャっと華のデスク隣のワークチェアを引き出し、尊臣は座った。長い脚を組み、華の顔をじぃっと見つめる。昨日は意識を戻した後すぐにまた眠ってしまい、面と向かってちゃんと話すのは尊臣がアメリカから帰ってきて初めてだ。
「あ、あぁ、そのこと。確かに言われたけど大丈夫よ。女医が舐められるのなんてよくある話でしょう」
「患者であろうと、許せないね。華、その……触られたってのは本当か?」
「ええ、まあ少しね」
「……患者とはいえ、許せねぇな」
尊臣の目元がギリッと一瞬険しくなる。
「仕方ないわよ。患者さんだって自分が病気でいっぱいいっぱいなのよ」
そう頭では思っているはずなのに、思い出しただけでぞっと身体中に鳥肌が立ちそうだ。華は思わず自分の両肘を抱きしめ、俯いた。
「怖かったよな。俺がその場にいればその患者にガツンといってやったんだけど」
ガラッと尊臣が座っているワークチェアが動き、華との距離が縮まった。ポンっと頭の上に重みと暖かさを感じ、華はほんの少し視線を上げる。
わ……なによ……
目を細めてなんとも言えない、自分のことを愛おしそうに撫でる尊臣が視界に映った。