高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい
その日の夕方、尊臣が203号室の佐藤に華の腕は確かで、とても優秀な先生だと佐藤をなだめてくれたと華は風の噂で聞いた。現に佐藤の病室に様子を見に行くと佐藤は手のひらを返したかのように華に対しての態度が変わっていた。これほど佐藤の態度がかわるなんてどんなことを尊臣は言ったのだろう。凄く気になり、色々なお礼を兼ねてのコーヒーを自動販売機で購入した華は尊臣を探すため、病院内をうろちょろ歩き回った。
(どこに行ったのかしら。急患とかもいないはずだし)
しばらく歩いても見つけられなかったので諦めて医局に戻ることにした。
「――高地先生っ」
ん?
明らかに尊臣の名前を呼んだ女性の声がした。尊臣が近くにいるらしい。どうせならこの手に持っているコーヒーだけでも渡そうと華は声のもとに歩き進めた。
(こっちから聞こえた気がしたけど)
廊下に面して三つ並んだ患者用の衣類や、シーツ類を収納してある部屋の一つの扉が開いている。普段はきちんと閉まっているはずなのに、どうしてだろうと不思議に思った華は扉に近づいた。