高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい


「ひっ……」


 耳元に低くてよく響く声を流し込まれ、吐息にゾクリと背筋が凍った。ドッドッドッドと心臓が不穏な動きをし、いきなりのことで怖くて身体が動かない。声が出ない。固まる身体に容赦なく、男は華を抱きしめ続け、サラリと黒い髪が頬をくすぐった。


「こんなに広い病院の中でも華ならすぐに見つけられる。こんなにいい名前をつけてくれたお父さんには本当に感謝だな」


 ――え?


 華という名前をつけてくれたのは癌で華が小学三年生のころに亡くなった父親がつけてくれた名前だ。一本でも周りを明るく照らしてくれる華やかな花のようになって欲しい。迷子になってもすぐに見つけてやれるから、とつけてくれた大事な名前。その由来を知っているのは母親と華の唯一仲良くしてくれていた尊臣だけだ。


(嘘っ……)


 華は慌てて抱きついてきた男から身体を引き離す。華に抱きついてきた男とばっちり目が合った。嬉しそうに目を細めて笑っている。

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