溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
6、彼女はとてもかわいらしくて Side Kouta
帰宅してリビングに姿がなく、彼女の部屋をノックした。
中から返事がありドアを開けると、フローリングに座り込んでいる姿があった。
仕事中、いつもすっきりとまとめ上げている胸下あたりまである長い髪は下ろされていて、暖かそうなふわふわした部屋着を身につけている。
そのまま動き出さない様子にどうしたのかと尋ねると、部屋に蜘蛛が出たという。
中に入って探してみたものの、行方はわからず捜索を中断した。
「どうしよう……」
なにか重大なミスでもしたかのような深刻な顔で呟く。
どのくらいの蜘蛛が出たかは未確認だが、そんなに虫が苦手なのだろうか。
今まで、彼女がこんな頼りない様子を見せたことはなく、一瞬別人を見ているような錯覚に陥った。
これまでのイメージだと、容赦なく蜘蛛を捕まえ処理してしまいそうなタイプなのに。
「蜘蛛が苦手なのか?」
「蜘蛛というより、虫全般がダメで……」
きょろきょろと依然周囲を確認しながら、千尋は落ち着かない様子でそう答える。
思わぬ弱点を知り、彼女には申し訳ないがかわいいと思ってしまった。