溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「まぁ、そのうちひょっこり現れるだろう」
「それが困るんです!」
仕事中では有り得ないような反論の口調。プライベートな俺に少しは慣れてきた証拠か、単純に虫が嫌いすぎての抗議か、どちらにせよ距離が縮まってきたようで喜ばしい。
「ビクビク過ごさなくちゃいけないですし……」
「住まいに出るような蜘蛛は害虫ではないから、そこまで怯えなくてもいいと思うが。むしろよくない虫を食べてくれると言うだろ」
「そうかもしれないですけど……」
「刺したり噛みつくわけじゃない」
「でも、急に遭遇したくないんです」
弱る彼女がますますかわいらしく見えてきて、どうしたものかと自分に戸惑う。
そんな俺の心境も知らず、千尋は小さなため息をついた。
「手早く対処できなかった、私が悪いんですけど……」
「次見つけたら声かけてくれ」
「はい。そうします」
蜘蛛騒動で荷解きは一旦中止らしく、千尋は相変わらず周囲を気にしながら床から立ち上がる。