溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
いつも一定の距離感を感じていた。
彼女からしてみればそれは敬意であり、秘書として当然の礼儀だったのだろう。
でも、俺にとってそれは見えない壁だった。
夫婦となり、ずっとふたりの間にあった見えない壁は、少しずつ壊れて取っ払われていくのかもしれない。
最速で入浴を終えて髪を乾かし、寝室へと戻る。
蜘蛛の出現に未だ怯えながら待っているかと想像するとクスッと笑いそうになるが、それを押し込めて寝室のドアを開けた。
「お待たせ」
部屋に入ると、しんとした部屋の中にはベッドの上に布団をかぶった膨らみがひとつ。
そっと近付き覗いてみて、つい「おいおい」と心の声が漏れ出た。
「嘘だろ……」
あれだけ早く戻ってきてほしいなんて言っておいて、来てみれば枕に顔を埋めて寝息を立てている。
でも、そこにあった穏やかな寝顔についふっと笑みがこぼれていた。
引っ越しから始まり、今日は慣れないことが立て続けに起こり気を張って疲れたのかもしれない。
こんな柔らかい表情で眠るんだな。
またひとつ新たな発見をして、しばらくその寝顔をそばで見つめていた。