溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


 黒服のスタッフが一礼して席を立ち去っていく。

 私も「すみません」と思わず謝罪の言葉を口にする。

 ひとりバッグを手に席を立ち上がった。

 楽しそうに談笑しながら食事をとる人たちを横目に、レストランの入り口を目指す。

 何も食事をしていないのに「ありがとうございました」と挨拶をされ、申し訳ない気持ちでレストランを後にした。

 勝手にキャンセルをして出てきてしまって、良かったのだろうか。

 レストラン前に設置されたベンチに腰を下ろし、今更そんなことを考える。

 二時間のコースだと聞いていた。

 食事の予約が十八時から。すでに四十分を経過してしまい、心苦しくなってこちらからキャンセル退店を申し出た。

 ちょうどそんなタイミングで晃汰さんから連絡が入った。

 連絡もなしに遅れてしまったことの謝罪。緊急のオペに入っていたことを知らされた。

 晃汰さんの秘書を務めてきた私にとって、それは想定の範囲内だった。

 きっと緊急のなにかがあったに違いない。

 そうわかっていたから、『大丈夫です。待ってますね』と穏やかに応えられた。

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