溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


「大丈夫か。いつから奴は」


 俺の方も相当動揺しているらしく、言葉がおかしい。

 千尋は俺を安心させるように、取った手をぎゅっと強く握り返した。


「大丈夫です。晃汰さんが来てくれた数分前だったので」


 そうは言われても、その数分でも悔やまれる。

 あと少し早ければ。緊急のオペなんて入らなければ。そんな後悔の念に苛まれる。


「すまない。怖い思いをさせて……」


 そう言った俺に、千尋はにこりと穏やかな笑顔を見せた。


「晃汰さん、お疲れ様です」


 普段と変わらぬ様子で、千尋はねぎらいの言葉をかけてくれる。仕事の都合といえ、大遅刻をした。その上、元縁談相手に迫られていたにも関わらず。


「申し訳ない。こんなに待たせて」


 しかも、一時間以上の遅刻だった。こんなに待たせてしまうなんて、理由はどうであれ自分を許せない。


「大丈夫ですよ。私、座って待ってましたし。晃汰さんのお仕事は私が一番理解しているんですから、不測の事態は重々承知です」


 どこか得意げにそう言う千尋が愛おしくて、公然の場とわかっていながらも抱き寄せてしまう。

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