溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「男の俺には、一生わかることのできない痛みだから、医者だからといって軽々しく語りたくもない。だけど、苦しまずに産むという選択肢があるのだから、それを選ぶのは有りだと思うんだ」
お腹を痛めて産んだ子だからかわいい。決してそんなことはないと思っている。
十カ月という長い期間お腹の中で守ってきただけで、母親というのは偉大で、そしてもうすでに愛情は芽生えている。
陣痛の痛みを知らなくても、対面できた時の感動は変わらないはずだ。
「私……実はこの頃、変な夢を見ていて」
「夢?」
「はい。それが、お産の夢なんですけど、陣痛がいつまでも終わらないっていう怖い夢で……それで、苦しみすぎて発狂しておかしくなっちゃうっていう、すごく後味悪いところで終わるんです。そんなような夢を、何度か……」
言われてみれば少し前、寝ている千尋が突然寝言で軽い叫び声みたいなものを上げて起こされたことがあった。
「大丈夫か?」と声をかけたものの、そのまま寝ていたから特に気にもかけていなかったが、そんな夢を見ていたせいだったのかもしれない。
出産が近付いて、自分でも知らぬ間に不安を重ねているのだろう。それが夢となって現れているに違いない。