溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
2、真面目秘書の憂鬱
「このあとの学術講演会のあと、福士教授との会食の予定が入っています」
上背のある広い背中には、今日はダークネイビーのスーツを纏っている。
身長一五七センチの私からは、顔を上向けないと視線が重ならない高身長。肩幅もがっちりとしていて、三つ揃いが良く似合う。彼以上にスーツをが似合う男性に私はこれまで出会ったことがない。
スクラブ白衣からスーツに着替えたところに、グレーの小紋柄ネクタイを差し出す。
それを受け取り、慣れた手つきで締め上げた。
「会食? そんな予定聞いてないぞ」
「はい。午前中、福士教授からご連絡をいただきまして。院長はオペに入られていたため、私の方でお返事させていただきました。銀座の『光陽亭』で十八時より会食の予定です」
私からの予定詳細に、広い肩の向こうから小さなため息が聞こえてくる。
「また光陽亭か……福士教授、上品な和が好きだから食事の好みが合わないんだよな」
「院長の食事の好みは重々承知の上です。ですが、申し訳ありません。福士教授のご希望に沿わせていただきました」
私の謝罪に、即答で「構わないよ」と返ってくる。
でも、また小さく息をつくのが聞こえた。