溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


 水瀬院長がそう言い終えた時、リビングの空気が一瞬止まったような、そんな感じだった。

 両親が揃って水瀬院長を見つめ、瞬きを忘れている。


「今日は、そのお願いをしに伺わせていただきました」


 静止した両親は、数秒後同時に意識が戻ったように動き出した。


「あっ、あの、院長先生が、うちの千尋と?」


 母親がひっくり返ったような声で訊く。

 水瀬院長は「ええ」と小さく頷いた。


「先日、千尋さんに縁談があったと伺いました。だから、早いところご挨拶にと」


 不意に水瀬院長の口から出てきた私の下の名に、トクっと心臓が反応する。

 仕事上、小野寺と苗字でしか呼ばれたことがない。

 水瀬院長が私の下の名前を違和感なくさらりと口にしたことにも驚く。

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