溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


 両親に見送られ、実家を後にしたのは十一時四十五分。

 往路の時間から計算すると、病院には十二時半前後には到着すると思われる。

 水瀬院長の入るオペは十四時から。昼食時間も余裕をもって確保できるだろう。

 発進した車の中には、沈黙が流れる。


『千尋さんを心から愛しています。他の方には譲れない』


 さっき真横で聞いた言葉が、今も耳の奥で鮮明に残っている。

 あの瞬間、鼓動が感じたことのない音を立て、全身に響くように鳴り始めていた。

 それはしばらく落ち着かず、今も残っている気がする。ずっと胸の音が落ち着かない。

 水瀬院長からそんな言葉を伝えられた両親は、それはもう私以上に慌てふためき大変だった。今にも卒倒しそうな顔になっていたのが目に焼きついている。

 無理もない。偽りの言葉だとわかっていた私でさえ、聞いていて気を失いそうになってしまった。

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