溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「結婚の許しも得たことだし、新居の準備も始める」
「えっ、新居……」
思わず素っ頓狂な声を出した私を、運転席からふっと笑った気配を感じ取る。
「その前に、両家で食事会でもした方がいいか」
「あの、私はご挨拶は……」
水瀬院長はわざわざうちに足を運んで丁寧な挨拶をしたのに、私も同じようにしないわけにはいかない。
そう思って口を開いたものの、そんなことを気にすることすら本来恐れ多い。
「必要ないだろう。父は小野寺をよく知っているし、気に入っている。母も同様だ。両家の顔合わせで十分だろう」
「そう、ですか……」
「小野寺がどうしても改めて挨拶の場を設けてほしいと言うなら要望には応えるが」
「いえ。お任せ、します」
「それなら、その時間は挙式の打ち合わせにでも充てればいい。結婚の準備は他にもたくさんあるからな」
ぽんぽんと出てくる現実味のない言葉に翻弄され、それ以上の言葉を失う。
一気に変わっていく自分の状況は、まるで濁流にのみ込まれていくように激しくあっという間だ。