溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「いつものコースで」
水瀬院長はそうシェフにオーダーし、ドリンクメニューをとなりに腰かけた私に差し出す。
「好きなものを。俺は運転があるからアルコールはとらない」
「では……私も院長と同じものをお願いします」
私の返答を聞き、水瀬院長はふたり分の烏龍茶をオーダーした。
目の前の鉄板では、シェフによって美しくカットされた色鮮やかな野菜が熱されていく。
それをぼんやりと見つめながら、落ち着かない気持ちをごまかす。
考えてみれば、三年ほど秘書としてそばにいても、お互いに食事をしている姿を見たことがない。
水瀬院長がどんな風に食事をするのかは目にしたことがないのだ。
ドリンクが運ばれ、目の前の黒いプレートには鉄板で焼かれた野菜が載せられる。
「考えてみれば、一緒に食事をするのは初めてだな」
どうやら水瀬院長の方も同じことを思っていたらしく、思わず横に顔を向けてしまう。
目が合うと不意に微笑まれ、どんな顔をしたらいいのかわからず正面に顔を戻した。
「そうですね。私も、今同じことを考えていたところです」
「そうか。小野寺はなにが好きなんだ? あ……」
質問を投げかけて水瀬院長はなにかに気付いたように話を止める。