溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


「これからは切り替えていかないといけないな」

「え……?」

「しばらくは慣れないが、仕事とプライベートは分けないと。だから、小野寺と呼ぶのは仕事中だけにする」


 そう言われ、小さく鼓動が跳ねる。

 確かに、私たちは今さっき婚姻届を出し、正式に夫婦になったのだ。

 プライベートな時間も苗字で呼び合っていたらおかしな夫婦だ。


「千尋」

「っ、はい!」


 不意に下の名前を口にされ、その場に相応しくない声をつい出してしまう。

 慌てて口元を手で覆った私を水瀬院長はふっと笑った。


「すみません。慣れないもので、ついボリュームが……」

「少しずつ慣れていけばいい。だから、俺のことも院長と呼ぶのは仕事の時間だけだ」


 そっか。そういうことになるよね。でも、それって呼ばれるよりもハードルが上がるのでは……。

 これまでずっと水瀬院長と呼んできたのを、晃汰さんと呼ぶようにしなくてはならない。

 食事中そのことばかりを考え、名前を口にするタイミングばかり気にしていた。

< 68 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop