溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「これからは切り替えていかないといけないな」
「え……?」
「しばらくは慣れないが、仕事とプライベートは分けないと。だから、小野寺と呼ぶのは仕事中だけにする」
そう言われ、小さく鼓動が跳ねる。
確かに、私たちは今さっき婚姻届を出し、正式に夫婦になったのだ。
プライベートな時間も苗字で呼び合っていたらおかしな夫婦だ。
「千尋」
「っ、はい!」
不意に下の名前を口にされ、その場に相応しくない声をつい出してしまう。
慌てて口元を手で覆った私を水瀬院長はふっと笑った。
「すみません。慣れないもので、ついボリュームが……」
「少しずつ慣れていけばいい。だから、俺のことも院長と呼ぶのは仕事の時間だけだ」
そっか。そういうことになるよね。でも、それって呼ばれるよりもハードルが上がるのでは……。
これまでずっと水瀬院長と呼んできたのを、晃汰さんと呼ぶようにしなくてはならない。
食事中そのことばかりを考え、名前を口にするタイミングばかり気にしていた。