溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「すごい……」
ぐるりと周囲を見回している私を、少し先を歩く晃汰さんが振り返り「こっちだ」と誘導する。
向かったのはエレベーターホールで、三基のエレベーターが用意されていた。
エレベーターが到着すると、私はすかさずエレベーターのボタンを押したままドアの横に立つ。
すると、近づいてきた晃汰さんにそっと背を押されエレベーターの中に促された。
「普段の行いが抜けないものだな」
「え……?」
「今は秘書ではなく、俺の妻という時間だ」
そんな風に言われてハッとする。
何も考えず、エレベーターを開けてドアを押さえ、晃汰さんが乗り込むのを待っていた。
そうするのは私の日常では当たり前のことで、自然にしている仕事上の動作だ。
エレベーターに乗った私を、階数指定をしながら晃汰さんはふっと笑った。
「すみません。仕事の感覚はなかなか抜けないかもしれません」
これまで秘書としてやってきて、それをいきなり妻という立場の振る舞いをしろと言われても難しすぎる。
そもそも、相手が晃汰さんというだけで私はプライベートな時間もずっと仕事中のような感覚なのかもしれないとふと思ってしまった。