溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る
「まだしばらくは、業務中のような対応になってしまうかと思いますが、少しずつ慣れていこうと思いますので」
不意に晃汰さんの手が私の腕に触れ、やんわりと掴む。
「千尋」
名前を呼ばれ驚いていた次の瞬間、美しい顔が目の前に迫って──。
「っ……⁉」
目を開いたまま、唇に柔らかく生温かい感触を感じて静止する。
これは、唇と唇が触れ合っていて、つまり、キスをしているという……。
冷静に状況なんて分析している余裕なんてないはずなのに、身動きの取れない私の思考はショート寸前。
唇が離れて改めて近距離で見つめられ、そこでやっと顔に一気に熱が集まり、心臓がドッドッと激しく打ち鳴った。
「少しは、俺を男として、夫として意識してもらわないと困るからな」
これまでの三年間で見たことのない、甘い微笑みにきゅっと胸が震える。
初めて見る晃汰さんの顔に混乱した私はその場で深く頭を下げ、「本日はこれで失礼します」と言っていた。
「急用を思い出しました。また明日、よろしくお願いします」
踵を返して足早に玄関に向かう背中にいつも通り「小野寺」と声がかかる。
でも、この時はどうしても振り返ることができず、肩越しに「お疲れ様でした」と返し玄関を飛び出した。