溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


「まだしばらくは、業務中のような対応になってしまうかと思いますが、少しずつ慣れていこうと思いますので」


 不意に晃汰さんの手が私の腕に触れ、やんわりと掴む。


「千尋」


 名前を呼ばれ驚いていた次の瞬間、美しい顔が目の前に迫って──。


「っ……⁉」


 目を開いたまま、唇に柔らかく生温かい感触を感じて静止する。

 これは、唇と唇が触れ合っていて、つまり、キスをしているという……。

 冷静に状況なんて分析している余裕なんてないはずなのに、身動きの取れない私の思考はショート寸前。

 唇が離れて改めて近距離で見つめられ、そこでやっと顔に一気に熱が集まり、心臓がドッドッと激しく打ち鳴った。


「少しは、俺を男として、夫として意識してもらわないと困るからな」


 これまでの三年間で見たことのない、甘い微笑みにきゅっと胸が震える。

 初めて見る晃汰さんの顔に混乱した私はその場で深く頭を下げ、「本日はこれで失礼します」と言っていた。


「急用を思い出しました。また明日、よろしくお願いします」


 踵を返して足早に玄関に向かう背中にいつも通り「小野寺」と声がかかる。

 でも、この時はどうしても振り返ることができず、肩越しに「お疲れ様でした」と返し玄関を飛び出した。

< 74 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop