私だけを濡らす雨/ハードバージョン
コワイ妹



愛らしいツグミの口からは、耳を疑う言葉がポンポンと続いた

「おじさんの犬は練習台ですね。人間を殺す前の…」

「あ、あのさ…、いくら妹さんでも、そこまで言い切れるのは、ええと…、なにか根拠みたいなものがあるのかな?」

小心者の桜木は若干、舌が上ずっていた

「だって、もう殺してるもん、あの人」

「!!!」

もちろん、目の前の彼は絶句した


***


「証拠はありません。でも間違いないと私は思っています」

桜木は恐かったが聞くしかなかった

当然、この言葉で…

「一体だれを…」

「お父さんとお母さんですよ、私達の。実の親二人です、お姉ちゃんからしたら」

「!!!」

今度は絶句に加え顔面蒼白、プラス滝のような脂汗だった


***


「おじさん、ごめんね。驚かせちゃって」

ツグミは一転、申し訳なさそうな表情になった

”ひょっとして、この妹もイカレてるのか…”

ふと、桜木はそう懸念が頭をよぎったのだが…

この時、桜木とツグミは目を合わせていた


***


「おじさん、私のこともこわい?」

中2の少女はハンで押したような健気であどけない表情だった

「えっ?…、いや、そんなことは…」

「あんな狂った女とずっと一緒じゃあ、気が変になっちゃうよ。ひっこもりは半年だけど、私は本当の意味で外に出たことなんかないんだよ。パパとママが殺されてから」

”それって…、どういう意味だろう…”


***


「…私の出る外はいつもどしゃ降りなの。冷たい雨がいつも降ってる。あの女が恐くて自由に生きられないんだよ、私は…」

「ツグミちゃん…」

やっぱり、桜木の目には等身大の少女に映っていた

”かわいそうに…”

桜木は再び思い切って聞いた

「さっき君は言ってたよね。お姉さん、いずれは誰かをって。…その、相手って決まってるのかな…」

ツグミから返ってくる答えは概ね想像がついた

しかし、桜木はそれでも尋ねた

今一つかみどころない、あどけないこの少女がどんな表情で”それ”を口にするのか…

彼はそれが確かめたかったようだ…




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