私だけを濡らす雨/ハードバージョン
その狂気、臨界接近す②
数日後…、郡氷子は桜木ケンを監禁してどんな具合に弄ぼうかと、いろいろシュミレーションを描いていた。
結果…、どうやら彼女は、桜木ケンに様々な拘束具を用いて”いたぶろうかしら(カノジョ的にはかわいがる!)のイメージにたどり着いたようであった。
そのためには、あらかじめ睡眠薬を使って眠らせる必要があると。
そこで、ここは一度、勝俣経由で若い男を呼び寄せ、仮想ケンへは丹念にリハーサルを施しておくべきだと…。
氷子は即、勝俣に会うことにした。
***
「…じゃあ、氷子さん、今夜はヨシキを回しますんで。リハーサル相手ってことで…。それで…、ホンバンのお相手になる、そのガキに打つクスリの件ですが、くれぐれも分量を間違えないようにお願いしますよ。未成年のガキだと、成長期のホルモンバランスが不安定なんで、時にショック症状を起こすかも知れませんので…」
「ハハハ…、まあ、即死しないんだったら、”ワンプレイ”の間くらいは持つでしょ。少し強いくらいに打ってやった方が、いい反応してくれるかもしれないわよ(薄笑)」
「…」
勝股は、いつも以上にイカレた目つきではしゃぐ氷子に、思わずギョッとするのだった。
***
「でさあ…、ホンバンの時に付くメンツ、大丈夫でしょうね?ドン臭いのはゴメンよ」
「ええ‥、今回の仕事の内容はしっかり承知してますので、藤森と板垣を出すつもりです。あの二人なら、氷子さんのお手伝いはしっかりと…」
「まあ、無難なとこだけど…。ヘタ売ったら、いくら旧知の二人でもその場で消えてもらうから」
「はあ…、大丈夫です。オレの責任において、確約しますんで…」
氷子からは強い信頼を得ているという自負を持っていた勝股は、”今回が特別”なのは重々承知していながらも、この時ほど彼女を心底恐ろしいと感じたことはなかった。
”やはりこの人、本気だ…。ここは絶対にヘマはできねえ…”
勝股はさらに身を引き締めた。
***
そんな勝股を氷子は射るような視線で、しばし無言のまま何かを深く推し量るような様子だった。
「そう…。なら、いいわ。とにかくコト暁となったらさ、私の残したものは半分あなたに上げる。その代わり、妹の分を1円たりとも手をつけるようなマネしたら、私は死んでもゾンビになって、あなたのはらわたを喰いちぎにくるから。監視カメラは生きてる人間ってこともあるのよ。最後だからって私をナメたら、死んだ後まで悔いを残すこと、忘れちゃダメよ」
それは、何とも凄まじい”念押し”だった。
この種の修羅場は数えきれないほどくぐってきている勝股も、思わず背筋を震わせずにはいられなかったのだから。
「わかってますよ、氷子さん…。オレは今の今まで一度たりともあなたを裏切ったりしてませんよ!」
勝股はややムキになってそれは、訴えるような口調だった。
するとその途端、今度は氷子は大口を開けて笑い出した…。
***
「アハハハ…、そんなムキにならなくていいわよ、勝股ちゃん…。あなたとはもう長いし、信頼してるんだからさ。…でさあ、私たち、最後ってことになるかもしれないし、今夜一発どうよ?」
一転、氷子は何とも妖しい瞳で勝俣の眼を射ぬいた。
勝俣は、一瞬迷った。
だが…、郡氷子という稀代のイカレ女のことを知り尽くしている勝股は、”真に受ける”ことを拒めた。
まさしく、なんとかではあったが…。
それは抱えるリスクの回避に相当する選択だったのだろう。
しかし、断りの言葉ひとつを間違えれば、この女に”発作”を起こさせる恐れがある。
それだけは避けなければならない。
彼は咄嗟ではあったが、一転、正攻法に出るのだった…。
***
「…いやあ、あのう、自分なんかはとても氷子さんの相手、務まりませんから。勘弁してくださいよ…」
「キャハハハ…、真に受けちゃったの、勝俣ちゃん…。冗談よ。あなたのアレ、祖品なの知ってるから。ハメたきゃ、とっくに迫ってるって」
「…」
これにはかなり微妙な反応を、勝俣は禁じ得なかった。
無論、氷子とは長い付き合いではあるが、敏感に”それ”を察知したのは言うまでもない。
”もうこれっきりだ。ここを逃げ切りゃ、この女の残した財の半分はいただける。うまくいって死んでくれれば尚の事嬉しいが、最後まで気は許せん!ここは言質をとらないと…”
「あのう、氷子さん、気を悪くしてませんかね?」
「別に。あんたとはまあ、うまくやってこれたんだし。感謝もしてるわよ、私みたいな狂人と最後まで付き合ってくれたんだもの。私だって、今のところはまだ抑えも効くから、大丈夫よ。でもねえ…、他のヤローだったら違ってたわねー。アハハハ…」
なんとかセーフ…。
勝股はこれで最低限の安心を得た。
数日後…、郡氷子は桜木ケンを監禁してどんな具合に弄ぼうかと、いろいろシュミレーションを描いていた。
結果…、どうやら彼女は、桜木ケンに様々な拘束具を用いて”いたぶろうかしら(カノジョ的にはかわいがる!)のイメージにたどり着いたようであった。
そのためには、あらかじめ睡眠薬を使って眠らせる必要があると。
そこで、ここは一度、勝俣経由で若い男を呼び寄せ、仮想ケンへは丹念にリハーサルを施しておくべきだと…。
氷子は即、勝俣に会うことにした。
***
「…じゃあ、氷子さん、今夜はヨシキを回しますんで。リハーサル相手ってことで…。それで…、ホンバンのお相手になる、そのガキに打つクスリの件ですが、くれぐれも分量を間違えないようにお願いしますよ。未成年のガキだと、成長期のホルモンバランスが不安定なんで、時にショック症状を起こすかも知れませんので…」
「ハハハ…、まあ、即死しないんだったら、”ワンプレイ”の間くらいは持つでしょ。少し強いくらいに打ってやった方が、いい反応してくれるかもしれないわよ(薄笑)」
「…」
勝股は、いつも以上にイカレた目つきではしゃぐ氷子に、思わずギョッとするのだった。
***
「でさあ…、ホンバンの時に付くメンツ、大丈夫でしょうね?ドン臭いのはゴメンよ」
「ええ‥、今回の仕事の内容はしっかり承知してますので、藤森と板垣を出すつもりです。あの二人なら、氷子さんのお手伝いはしっかりと…」
「まあ、無難なとこだけど…。ヘタ売ったら、いくら旧知の二人でもその場で消えてもらうから」
「はあ…、大丈夫です。オレの責任において、確約しますんで…」
氷子からは強い信頼を得ているという自負を持っていた勝股は、”今回が特別”なのは重々承知していながらも、この時ほど彼女を心底恐ろしいと感じたことはなかった。
”やはりこの人、本気だ…。ここは絶対にヘマはできねえ…”
勝股はさらに身を引き締めた。
***
そんな勝股を氷子は射るような視線で、しばし無言のまま何かを深く推し量るような様子だった。
「そう…。なら、いいわ。とにかくコト暁となったらさ、私の残したものは半分あなたに上げる。その代わり、妹の分を1円たりとも手をつけるようなマネしたら、私は死んでもゾンビになって、あなたのはらわたを喰いちぎにくるから。監視カメラは生きてる人間ってこともあるのよ。最後だからって私をナメたら、死んだ後まで悔いを残すこと、忘れちゃダメよ」
それは、何とも凄まじい”念押し”だった。
この種の修羅場は数えきれないほどくぐってきている勝股も、思わず背筋を震わせずにはいられなかったのだから。
「わかってますよ、氷子さん…。オレは今の今まで一度たりともあなたを裏切ったりしてませんよ!」
勝股はややムキになってそれは、訴えるような口調だった。
するとその途端、今度は氷子は大口を開けて笑い出した…。
***
「アハハハ…、そんなムキにならなくていいわよ、勝股ちゃん…。あなたとはもう長いし、信頼してるんだからさ。…でさあ、私たち、最後ってことになるかもしれないし、今夜一発どうよ?」
一転、氷子は何とも妖しい瞳で勝俣の眼を射ぬいた。
勝俣は、一瞬迷った。
だが…、郡氷子という稀代のイカレ女のことを知り尽くしている勝股は、”真に受ける”ことを拒めた。
まさしく、なんとかではあったが…。
それは抱えるリスクの回避に相当する選択だったのだろう。
しかし、断りの言葉ひとつを間違えれば、この女に”発作”を起こさせる恐れがある。
それだけは避けなければならない。
彼は咄嗟ではあったが、一転、正攻法に出るのだった…。
***
「…いやあ、あのう、自分なんかはとても氷子さんの相手、務まりませんから。勘弁してくださいよ…」
「キャハハハ…、真に受けちゃったの、勝俣ちゃん…。冗談よ。あなたのアレ、祖品なの知ってるから。ハメたきゃ、とっくに迫ってるって」
「…」
これにはかなり微妙な反応を、勝俣は禁じ得なかった。
無論、氷子とは長い付き合いではあるが、敏感に”それ”を察知したのは言うまでもない。
”もうこれっきりだ。ここを逃げ切りゃ、この女の残した財の半分はいただける。うまくいって死んでくれれば尚の事嬉しいが、最後まで気は許せん!ここは言質をとらないと…”
「あのう、氷子さん、気を悪くしてませんかね?」
「別に。あんたとはまあ、うまくやってこれたんだし。感謝もしてるわよ、私みたいな狂人と最後まで付き合ってくれたんだもの。私だって、今のところはまだ抑えも効くから、大丈夫よ。でもねえ…、他のヤローだったら違ってたわねー。アハハハ…」
なんとかセーフ…。
勝股はこれで最低限の安心を得た。