私だけを濡らす雨/ハードバージョン
マッド・カウントダウン➊



3人による桜木ケン捕獲の首尾は実にシンプルではあったが、それは郡氷子の用意周到かつ綿密な事前リサーチに裏付けされていた。


”ケン坊は自宅まで約700Mのコンビ二Fで寄り道のあと、必ず一人で2車線の歩道整備された直線道路を200M歩いた後、車の通行できない路地に入る。その直前に割かし人通りが少ない変則T字路がある。さびれた公園と廃屋状態の店舗が向かいあって、車の停車にも都合がいい。獲物はここで捕獲する…”


この日、桜木ケンがバスケットボールの部活があるのを承知していた郡氷子は、ケンの捕獲実行地点で板垣と藤森、そしてピンポイントでの役目を任じられたヨシキと共に、コンビニFに駐車したワゴン車の中て最終打合せを交わしていた。


”よし…。あらかじめ板垣らにはビシッとかましておいたから、みんないい具合に緊張してるわね。さあ、クライマックスの舞台は幕が上がったわ…”


この時点、こう心の中でつぶやく郡氷子のメンタル面は、言わばワクワク感を抱いていた…。
そして、概ね予測時間通り、ターゲットはやってきた。


***


「ああ、あなた、桜木ケンさんですよね?」


「ええ、そうっすけど…。何か?」


「自分、郡ツグミさんに遣わされた者です。その先で、やばい連中があなたを待ちぶせしてるみたいなんだ。たぶん、数か月前バリカンで頭を刈ったふたりです」


「…」


兄と違って頭の回転がいいケンはすぐにコトの全容が掌握できた。
ツグミからは事前に姉の魔手が迫っているらしいと、注意を促がされていたのだ。

今日にも妹のケータイから番号を盗んだスマホに連絡が入るかもしれないと…。


なので、この時間帯は一時的にケータイの電源を切っておくようにツグミから指示されて、連絡の取れないツグミが人を放って危険を知らせてきたという見立てはつじつまがあった訳だ。


***


「なにしろ、彼女と連絡を取って下さい。反対側の側道脇にワゴン車が止まってるから、あの脇ならヤツらが近づいてきても死角になる。あそこから電話してみて下さい」


「わかりました。じゃあ…」


二人は小走りで道路を横断して、廃屋前に停車しているワゴン車脇に向かった。
ツグミからの遣いを装ったヨシキは、夜のテクニックさながらに、なかなかの演技達者だったようで…。


「ああ、そこでスマホかけて下さい!オレは少し前に行って、ヤツらの様子を伺ってきますから」


ヨシキは通行人や人の目がないのを確認すると、ワゴン車の後部座席のドア付近を指さし、ケンを誘導すると、桜木家方面に向かって走って行った。
ケンは彼に会釈した後、ワゴン車の後部側に身を隠すように立ってスマホの電源を戻した。

と…!
その時であった…。




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