私だけを濡らす雨/ハードバージョン
突入の途❷



桜木家から150M手前の坂上に停車、まさにいざ突撃を直前に控えた、4人を乗せた黒のワンボックス車は異様な空気に支配されていた。

「ケン坊…、おうちの近くにちゅいたわよ💖…アンタんっちにはツグミもいるわ。兄さんと一緒にあなたを待ってる。でもね、妹は私がアンタに何をするか、知ってたのよ。
今頃、私達が来るのを待ちわびてるはずなんで~~、さあ、ケン!突入よ!」

「…」

”まさか…!ひょっとして、氷子さん…、殺る相手、桜木ケンの兄ではないのか⁉実の妹を…⁉”

板垣と藤森は、互いにこう胸の中で呟きながら、思わず前部シートで顔を見合わせていた。

そして、助手席の藤森が後部シートに振り返り、虚ろな表情で横たわっている桜木ケンを抱きかかえながら、トロンした眼で囁き中の郡氷子に、恐る恐るい伺いをたてた。

「あの…、氷子さん…、今んとこサツは駆け付けてないようですが、そろそろ…。でないと…」

「藤森、アンタ、最後まで卑小な器晒しやがって。私は今、ケン坊と呼吸を整え合ってんだっての!」

「ううっ…」

ここで板垣と藤森は再度顔を見やった。

今度は互いに、”ヤバイぞ!このオンナ、キレたかも⁉”と、コワモテの額にあぶら汗を一筋滴らせながら、アイコンタクトを交わしている。


***


「フフ…、まあ、いいわ。それこそ最後だものね。まあ、私、ウキウキなんで~。…よし、藤森、板垣、今から段取り言うぞ‼」

「あ…、はい、頼んます!」

この後、氷子はケンのアタマを両手でナデナデしながら、端的に二人の用心棒へ指示出しを済ませた。

「…わかりました。まずここで氷子さんを下ろし、オレらはこの車を徐行しながら、家の前でいったん停車。その際ファザードは焚かずに。で、あなたが車の前に到着し、その合図を以って桜木を台車ごと、桜木家のリビングに面した掃き出し窓にぶっこむ…。そのあと、オレと板垣は退散で噛まないんですね?車に乗って…。あなたを乗せずに…。ホントにそれで噛まないんですよね!」

藤森は慎重に念押しした。
この猟奇極まるオンナが切れるリスクを承知で。

すると…。

「アハハハ…、藤森~、アンタ、瞳孔飛びでそうよ。あのねー、ここまで来てアンタらみたいなチンピラにもう”どうこう”はないわよ。キャハハハ~。…ケンを放り込んだら、ソッコーでとっとと消えていいよ。サツが来る前なら、アンタら足つかずでセーフなのは自分らがよくわかってるでしょーが。ってことよ。なら、行くか‼」

ここで氷子は両腕からケンのアタマをポンと放り捨てるようにシートへ解放した。
明らかにその様相はここで一変し、もう桜木ケンに見向きもせず、ツカツカと車外に出た。


***


「よし!板垣、後はこのガキを桜木邸にぶっこめばお役御免だ。ぬかるな!」

「おおー‼」

二人はフルギアにチェンジアップ、道路に出てタバコに火をつける最中の氷子に会釈したあと、台車に縛り付けた桜木ケンもろとも、坂下へ、静かに発進した。
ちなみに、藤森らの会釈を受けた郡氷子のリターンは、大げさな腰くねりポーズでもウインク&投げキッスだった…。

その絵柄に、アウトサイダー歴数十年の藤森と板垣はというと…!
無論、”ゾオ~ッ”+”オエ~~”で反応するほかなかった…。





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