花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
満開の桜の下で琴乃が誰かとキスをしたと聞いた瞬間に頭が真っ白になった。

いつだ?いつ誰に奪われた?

古賀も驚いてるからコイツじゃない。

俺がこんなに努力しているのに…。注意して他の男を近づかないようにしていたのに…。そんな隙があったのか?

気がつくと琴乃の腕を掴んで歩き出していた。
もう俺以外の男な目に触れさせたくない。俺だけのものしてしまいたい。嫉妬という感情が俺の全てを支配していた。

秀作の姿が目に入り、いつも使っている部屋のキーを貰うとそこへ向かった。

部屋に入ってソファに座ると冷静な自分が少しだけもどってきた。こんなに勢いよく部屋に連れ込んで怖がらせてしまったに違いない…。

「…ごめん、こんな風に感情が抑えられなくなったのは初めてで。」

「…大丈夫。でも、真宮くんを怒らせてしまった原因がわからなくて…。私、何かしちゃったんだよね?」

「えっ?わかってないの?」

深いため息をつき頭をくしゃくしゃっとかきむしった。こいつもしかして鈍いのか?俺の嫉妬に気付いてないのか??

「自分の好きな女が他の男とキスした話を聞いたら嫉妬するだろう!普通は!」

ここまで言えば伝わるだろうと思っていたのに
『真宮くん、彼女に浮気されたの??』と意味不明な事を言ってきた。

「俺の好きな女はお前だよ。だから嫉妬したんだ。」

あぁ…。ついに言ってしまった。
もっと確実に断られないようにしてから思い出に残るシチュエーションで告白するつもりでいたのに…。
全てが台無しだ…。

そして衝撃的な事実を知らされた。
どうやら俺は自分に嫉妬していたらしい。

恥ずかしがりながらキスの時のことを語る琴乃は可愛くて愛おしいかった。

ゆっくり手を伸ばし、2度目のキスをした。

「…ったく、今まで計画通りうまくやるはずだったのに今日は大失敗だ…。」

部屋の電話が鳴ったので電話へと向かい受話器を取った。おそらく修作が心配して電話してきたんだろ。先程からスマホも震えていた。

「もしもし。」

『晴翔?大丈夫か?そっちに行こうと思うんだが…』

「…ああ、もう、入ってきて大丈夫だ。」

受話器を置くと修作が入ってきた。

「お嬢さん大丈夫ですか??」

「はい。大丈夫です。」

俺が琴乃に何かすると思ったのだろうか?着衣に乱れのない彼女を見てホッとした表情をした。

「晴翔、普段冷静過ぎるほどなお前がどうしたんだ!?あんなに感情をむき出しにして…。携帯に連絡しても繋がらないし、警察呼ぶはめになるかと思ったぞ!!」

「好きな女が俺の知らなところで男とキスをしたって聞いたら吹っ飛んだ。」

「はぁっ!?お前がか?…ってことはこの子が例の…?」

「修作、それ以上言うな。」

「…あぁ、そっか、悪い。」

琴乃には聞こえないように背を向けて話を続けた。

「お前の好きな子ってのは彼女なのか?」

「そうだ。親父に無理言って婚約までした子だ。」

「こんなことして大丈夫なのか??」

「ダメだろうな…。」

「あちらへの連絡は?」

「夜にでも俺から連絡する。」

「そうか…。わかった。」

何かを了承し、チラッとこちらを見た。

「晴翔とは10年以上の付き合いだが、こんな晴翔を初めて見たよ。よっぽど相手に嫉妬したようだね。しかもその相手が自分なんて良いネタを貰ったよ。コイツに困ったことがあれば気軽に電話しておいで。」

連絡先を書いた名刺をことなに渡そうとするので彼女が受け取る前に横から手を伸ばし阻止した。

「例え相手が秀作でも男と連絡取り合うのは嫌だ。」

奪い取った名刺を修作に渡す。

「はっ?お前マジか!?」

秀作は俺のらしからぬ行動に目を丸くして驚いていた。

「琴乃、作戦変更だ。必ずお前の口から俺のことを好きだと言わせてやる。」

宣戦布告のように頬にキスをした。

「えっ!?」

俺のキスに驚く顔を見ると可愛くて自然と口角が上がる。

「もう、隠さなくて良いからな!」

ずっとやりたかった指を絡めて手を繋いだ。

「ずっと、こうしたかったんだ。」

琴乃の柔らかい手を自分の口元に持っていきキスをした。
< 107 / 113 >

この作品をシェア

pagetop