花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
1日目は恋人岬など有名な場所を一通り巡り、夕方になる少し前にホテルに到着した。

夕食の時間は19時なので、それまでは荷物の整理などを含め自由時間に充てられており、ホテルのプールやエステを楽しむ女子生徒も多かった。

深雪さん、牧野さんとお揃いにしたパジャマはまだ出番はなくスーツケースに眠っていた。
フワモコのパジャマは色違いの水玉でお揃いのヘアバンドが付ており、3人ともひと目で気に入ったものだった。

お揃いにしなくても咲良さんも一緒に水着を買いに行くことにすると、なぜか自然に柳くんと古賀くんもついてきて、結局、いつものメンバーでのお出かけになった。お揃いの水着は同じデザインの色違いにした。
胸元が2段のフリルビキニにミニの花柄のフレアスカートのついたものだった。
トップスの方が無地になっており、深雪さんが黄色、牧野さんはピンク、私は水色を選んだ。
『何となく信号機っぽいね』と古賀くんに笑われたが『パステルカラーだから信号機じゃないもん!』と牧野さんが言い返していた。

ラッシュガードを羽織りビーチタオルを持つとホテルの外にあるプールに3人で向かった。

オーシャンビューになっているプールは水面がまるで海とつながっているように見えて、不思議な感覚になるところだった。

「きれーい!」

あまりの美しさに感動し自然と声になる。

「ほんとにきれいです!!」

「3人で写真撮ろぉ〜♡」

海を背景にお揃いの水着でスリーショットを撮ると、早速、深雪さんは愛しの先輩にスマホから送った。

「2人とも彼氏がいて羨まし〜い!」

「そう言えば牧野さんの恋バナって聞いたことないね。」

「そりゃそうよぉー!だぁって、好きな人いないもぉん!私だって少女漫画に出てくるような胸キュン体験したぁーい!めっちゃ憧れちゃう。」

「運命の人は突然現れるものです!きっと牧野さんにも現れます!」

深雪さんの言う通り、この人を好きになろうと思って恋ができるわけではない。
私と真宮くんの出会いも偶然だったし、好きになったのも、好きになろうとしてなったものではい。

「そうよね、私にだって運命の人はいるはず!今はプールを楽しむのが先ね!」

「そう言えば、向こうでシェル型のフロートマットがレンタルしてました。牧野さんにぜったい似合いそうです!借りに行きませんか?」

入り口に浮き輪やフロートマットがたくさん積んであり、その中に大きな貝殻の形をして上に乗れるタイプの物が置いてあった。

「うんうん、私も見た!深雪ちゃん、一緒に借りに行こ!琴乃ちゃんはタオルとか荷物見張っててぇ〜!」

「いいよー。ここで待ってるね!」

辺りを見渡せば日本人らしき人も沢山いるし、そもそも、プールにいる日本人のほとんどがうちの学生っぽかった。
ここまで日本人に囲まれていたら、何の不安もない。

2人がフロートマットを借りに行っている間、プールサイドに腰をかけて、足をパチャパチャさせて遊んで待っていた。

「Hi! Do you have time?(ハイ!時間ある?)」

後ろから声をかけられたので振り返ると、ダークブラウンに青い目のイケメン外国人が立っていた。会話重視の英語教育に変わりつつある日本だが、使う機会の無い人にとっては昔とあまり変わらない。そして、リスニングは私の最も苦手とする分野だった。

「わっ…わっつ ディッジュー セイ?」

 何て言ったんだろ?
 つ…通じたかな??

「OK!Do you have time? Let me buy you a drink. (時間ある?一杯おごるよ。)」

 …た…タイムって言った?
 時間を聞いてるのかな??

なんて答えたらいいか分からず固まっていると、イケメン外国人は私の隣に座り腰に手を回した。

 えっ!?距離が近いし腰に手が…。

「It's not necessary. Because she has me.
(必要ない。俺がいるからな。)」

聞き覚えのある声がする方を見ると真宮くんが少し険しい顔をして現れた。
真宮くんが何か答えた後、イケメン外国人は直ぐにどこかへ行ってしまった。

「なにナンパされてんだよ。むかつく。」

最近わかってきたのだが、こう言う口調の時の真宮くんは大体何かに妬いていていじけているのだ。

「なっナンパだったの!?時間聞かれてるのかと思った。」

「お前、英語ダメだったんだな。」

「あはは。バレちゃった?」

「まぁ、俺にくっついてアメリカ来れば嫌でも話せる様になる。」

「…はは。なるかな…。」

真宮くんは隣に座ると額、頬と首筋の順番にキスをした。

「琴乃は俺を犯罪者にしたくなければナンパに気をつけるんだな。」

何かイタズラを思いついた少年のような笑顔を見せた。

「はぃ…。」

またナンパされると困るからと深雪さんと牧野さんが戻るまでの時間そばにいてくれた。
プールサイドなのに水着じゃないんだ…。と思っていたら今から少し柳くんと外出すると言って、2人が戻って来るとプールから出て行ってしまった。

「あら?琴乃さん、私たちが居ない間に何かありました?」

深雪さんが何かに気づいて聞いてきた。

「外国人に声かけられたんだけど、英語わからなくて困ってたら真宮くんが助けてくれたの。」

「それで先程一緒にいたんですね。全く所有欲の高い人ですね。」

ニヤリと笑った。
深雪さん言葉を聞いた牧野さんが私をじーっと見つめて

「きゃー!そーゆー事ですね!真宮くんやりますね!」

興奮する牧野さんをスルーして

「首筋にキスマークが付いてますよ!」

と小声で教えてくれた。
< 112 / 113 >

この作品をシェア

pagetop