花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
「それがなぁ…。既に転校の手続きは済んでいるんだ。そういうわけだから、夏休みの残り1週間で引っ越しの荷物をまとめてくれ。あと、お前に婚約者ができた。高校を卒業と同時に結婚する話になっている。」

「はぁっ!?婚約者??私、まだ学生だよ!!何考えてるのよお父さん!」

「お前の結婚話と同時になぁ。父さん出世することになったんだ。まぁ、親孝行だと思って…。」

お父さんは気まずくなったのかお母さんの方を見る。

「お話を聞く限り悪い話ではないのよ。相手もいい方の様だし…。」

お母さんがフォローするように説明した。「とりあえず婚約という形をとって悪い虫がつかない様にしたいそうなんだ。父さんの事業もお前の学費も全部サポートしてくれるって言うんだよ。」

お父さんはまるで宝くじにでも当たったかのような嬉しそうな顔で話を続ける。

「…ただ、一つだけ先方に頼まれてなぁ。卒業まではお前に素性を知られたくないって言うんだ。」

「何その話!私にどこの誰かもわからない人と結婚しろって言うわけ!?」

なんて失礼な男だ。結婚したいというならば堂々とプロポーズしに来なさいよ!そしたら思いっきり断ってやれるのに!

「絶対に嫌ッ!転校も引っ越しも婚約もぜーーっんぶお断り!!!」

大きな声で反対すると両親は困った顔をして互いを見合っていた。「しかしなぁ…。この話を断ってしまうと父さん、無職になってしまうかもしれん…。」

しょんぼり悲しげに言う。「何そのパワハラ的なやつ!お父さんはそんな奴のために娘を売るわけ!?」

怒りでテーブルを『バンっ』とたたき、立ち上がってしまう。

「お父さんも琴乃も落ち着いて。今の学校よりも転校先の学校の方が優秀なようだし、大学の付属高校になるから大学受験の心配はないのよ。婚約したからって直ぐに結婚する話になっているわけじゃないんだから、高校を卒業するまで様子見るっていうのはどうかしら?」

『とりあえず、これを見て』とA4サイズが入る封筒から転校先の学校のパンプレットを取り出してダイニングテーブルに広げた。

 …こ、この学校は!!
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