花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
 諦めろと言われたって…。冷たい言葉には傷つく。

「何よりもあの悪魔のような視線。文句を言うためにあら捜しをされているみたい!」

「ふふふっ。悪魔とか言っては可哀そうだわ。」

咲良さんが真宮くんを憐れんで笑っていると
『トントン』とドアがノックされた。

「はぁ~い!どうぞ!」

と、わたしが答えると、寮母の太田さんが入ってきた。

「琴乃さんにお届け物よ。」

と、小さなブーケと大きな箱を二つ抱えて入ってきた。

「重くはないんだけど大きくてねぇ~。制服かしら?」

といって荷物を置いて出て行った。

 このブーケ…。前回、婚約者から届いたブーケと同じフラワーショップのリボンだ。

今回、お花にはカードらしきものはついていなかった。
箱をけてみると太田さんの予想通り、新しい制服が入っていた。
早速届いた制服に着替えファッションショーの様にくるりと鏡の前で回転し姿を映してみる。

「とても似合っているじゃない。」

咲良さんに褒められるとなんとなく自信がつく。
制服を脱いでもう一つの箱を開けてみると、紺色のイブニングドレスとシルバーのヒール、それに合わせたアクセサリーが一式入っていた。
どうやら今月の贈り物はこのドレスのようだ。

 ド…ドレス?こんなの着ていくところなんてないのに…。

ドレスの箱には前回と同じメッセージカードが入っていおり『いつか一緒にダンスを 君の婚約者より』と書かれていた。
前回同様後ろからカードを覗き込んだ咲良さん

「あらまぁ、キザですこと。でも、ちょうど良かったですわね!」

と言って笑った。
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