花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
聖麗学園の生徒会室は5階の角部屋で2面窓があるので日当たりがよかった。
奥に会長用の机が入り口を向く位置においてあり、他の生徒会員用にコの字型に机が並べられていた。

私が緊張しているのを見透かしたかのように、

「そんな端っこで固まってないで、とりあえず座って楽にして!」

と、会長は入口手前にある応接セットへ座るよう勧めた。
会長は部屋の換気をするために窓を開けると、私と向かいあう場所に腰を下ろした。

「…あの、私は何で呼ばれたんでしょうか??」

「クルーズ船で会った君のことが忘れられなくて先生に君を呼び出してもらう様にお願いしたんだ。」

「えっ!?」

想像もしていなかった言葉に驚きしかない。そんなことのために大人である先生を使ってしまうのか!?

「…というのは冗談で。僕は生徒会長をしている3年の知多(ちた)です。前の学校で君がwebデザインに長けていたと書類に書いてあったのを見たんだ。」

まったく!変な冗談はやめて欲しい。恋愛経験の乏しい私は一瞬で凍り付き手汗が噴出してしまったではないか。

中学の美術の授業の時間にwebデザインコンテストが校内で行われ、幸いにもそこで1位になった経験があった。それを前の高校の受験書類の特技欄に記載すると、入学後、先生から学校のHP(ホームページ)のリニューアルを手伝って欲しいと言われ素人ながら作業を行っていた。どうやら、そのことが編入時の申し送り書類に記載されていたようだった。

「プロのようなものは作れませんが、前の学校のHPを作るお手伝いをしていたので、そのレベルで良ければ作業はできます。」

「良かった。実は生徒会の専用ページを学校のHPに設けることになって、ぜひ、内田さんに手伝って欲しいと思ってるんだ。」

「私がですか?」

「そう、君にお願いしたいんだ。引き受けてくれないかな?」

「…分かりました。」

前の学校の経験もあるし、嫌いな作業ではないので引き受けることにした。それに、もし、会長と私の婚約者が繋がっているならば何か話を聞けるかもしれないと思ったのだ。
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