花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
外出申請を出し、週末にWebデザインに関する本を自宅へ取りに向かった。
ネットで調べればたくさん情報が出てくるが、本を開いて調べる方が好きなのだ。
実家を出て寮で生活をするようになってから、まだひと月ちょっとなのに、自宅のある街に来るとすごく懐かしさを感じる。

自宅が近づくと白の高級車が家の前に止まっているのに気がついた。

 何だろ?うちに何か用があるのかなぁ?

不思議に思いながら見ていると、自宅からスーツを着た男性が出てきて、そのまま車の後部座席に乗り込んで何処か行ってしまった。残念ながら顔は車のドアを開けた運転手の頭が邪魔で見る事ができなかった。

 お父さんの知り合いかなぁ?

「ただいまー。」

大きな声で挨拶をしながら玄関を開け自宅に入った。

「琴乃!?」

「琴乃、何でいるんだ!?」

寮に外出の申請はしたが、両親には特に連絡をしていなかったので、揃って慌ててリビングから出てきた。自分の家に帰るのに許可なんて要らないと思ったからだ。

「えっ?Webデザインの本が必要で取りに戻っただけだよ?二人とも慌ててどうしたの?」

「今誰かに会ったか!?」

「ん?遠くから誰か出てきたのは見えたけど…?お父さんの会社の人?あ、お母さん、お茶ちょうだい!喉乾いちゃった!」

お母さんは黙ってキッチンへ向かい、冷蔵庫から麦茶を出すとコップに注いで私の前に出してくれたので、お礼を言って口をつけた。

「彼がお前の婚約者だよ。」

「えっ!?」

ゲホッゲホッ!!驚いてむせた勢いで飲んでいたお茶を口から吹き出してしまった。
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