花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない

ミス聖麗学園

自宅で婚約者とニアミスをした後、寮に戻ると今月の贈り物が届いていた。

あの後、お父さんを問い詰めたがやっぱり何も教えてもらえなくて、もう少し早く寮を出発していたらしっかり顔を合わせることが出来たのではないかと思うと悔しくて仕方がなかった。
婚約者のヒントはあの遠目からみた一瞬の残像のみで、余命わずかな老人でない事はわかった。寮に戻るバスの中、何度も何度も思い出してしっかり記憶に留めた。

 あの運転手が居なければしっかり顔を見られたのに!

「今月、贈り物は何でしたの?」

同室の咲良さんが覗き込む。
10月に送られてきたの小さなブーケと30センチほどの段ボール箱だった。
ブーケにはいつものメッセージカードが付いていた。『君より輝くものはない。君の婚約者より』

「相変わらずキザなメッセージですこと。」

私も咲良さんに同感だ。

段ボールを開けるとさらに箱が入っていた。箱には『家庭で楽しめる本格投影』と書かれていた。
高級腕時計、イブニングドレス一式、ここで贈り物の系統がガラリと変わったようだ。

「…プラネタリウム?」

「琴乃さんは星より輝いているって意味かしら?」

家庭用のプラネタリウム本体と説明書を取り出し、部屋を暗くして早速2人でプラネタリウムを使ってみた。
真っ暗な部屋に光が散りばめられると、いつもいる部屋なのにまるで異空間にいるような不思議な感じだった。

「綺麗ですわ。」

「ほんとキレイ…」

ベッドに転がって2人で天井を見上げた。

「咲良さんは柳くんのことどう思ってるの?」

「…好きよ。幼馴染だし。」

「幼馴染だから?柳くんって絶対に咲良さんのこと、女の子として好きって見えるんだけど…。」

「…。本当は私もそう思うの。だけどお互いに告白してはいけない空気があるの。今の関係を壊したくないのかもしれないわ…。」

「と言う事は、やっぱり咲良さんも…?」

「どうなんでしょう…。でも、しばらくはこのまま変化はないと思うわ。…琴乃さんこそ、このまま顔もしらない方と結婚するの?」

「それこそどうなんだろう。小さい頃から両親みたいに普通に恋をして、大好きになった人と結婚するものだと思っていたから…。できる事ならば恋をした相手と添い遂げたいと思うの。」

「あのメッセージを見る限りでは相手はあなたに好意がありそうよ?琴乃さんが婚約者の方を好きになれば解決しそうだけど…。本当に心当たり無い方なの?」

「…うん。」

狭い寮の部屋の中でも星空を見ると感傷的な気持ちになってしまうようだ。
2人でなんとも言えない気持ちになり心の内を声にした。
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