花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
何だかんだとやることがあり、受付の自分の当番を終えた後も手伝いをしていた。そもそも、転校してきたばかりであまり友達もいないので、クラスで手伝いをしていた方が心地よかったし楽しかった。ここにいれば咲良さん、柳くん、深雪さんが入れ替わりでやってくる。

お昼前の最後の公演の時だった。
『ぉお〜っ!』『きゃーっ!』と言ったどよめきの声が聞こえてきた。

 どうしたんだろう…?

舞台の方を見てみると、王子様が眠り姫にキスをして魔女の呪いを解くシーンで、塚田さんが真宮くんに演技ではなく本当に口へとキスをしていたのだった。

「晴翔油断したな…。」

「ですわね。」

私の後ろにいた咲良さんと柳くんが呟いた。

カーテンコールが終わり教室にいたお客さんを外に出すとクラス中て真宮くんと塚田さんのキスのことで大騒ぎになった。

「ごめんねー!いつも晴翔とキスしてるからつい癖で本当にしちゃったぁー!」

「はぁっ!?お前何馬鹿なこと言ってんだよっ!」

「やっぱり私、付き合ってるの隠してるのは嫌なの。晴翔、ごめんね?」

「何だよ真宮!隠してんなよー!」

「塚田さんってずっと真宮くんのこと好きだったよねー!おめでとう!」

「ばっばか!本当に違うんだ、付き合ってなんかいない!!」

「もぅ、隠さなくて良いんだぞっ!真宮〜。」

クラス全体が一気に祝福モードに変わった。

「晴翔嵌められたな…。」

「ですわね。」

2人とも冷ややかな目で真宮くんを見ていた。
咲良さんも柳くんも塚田さんが勝手にやっている事だと思っているようだ。
私には異性に下の名前で呼ばれたくらいで婚約者が居るのにどうこう言ってきたにも関わらず、自分は人前で唇を奪われて一体何をやっているのやら。何となくモヤっとしてきた。
すっかり塚田さんと真宮くんはクラスのみんなに囲まれてしまっているので

「お腹空きましたわ。どうせだから3人で何かいただきませんこと?」

「俺、下の階のクラスでクレープ屋さんとカレー屋さん見たけど行く?」

「そうですわね、ここにいても、もう仕事は無いですし、参りましょう!」

「真宮くんは置いて行って良いの?」

「仲良くされている方もいるようですし、宜しいのでは?」

「無事に逃げられたらきっと連絡来るよ。ははっ。」

と、3人で教室を出ら事にした。
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