花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
真宮くんが勉強を教えてくれると言ってくれた日から数日、放課後になると2人で図書室に通った。お陰で不安だったところはすっかり自信がついた。
自他共に認める天才というのは嘘ではなかったようで、私がわからないところをうまく読み取ってくれた。教え方がとても上手で説明されると一度で理解できたので、無駄な時間は一切なかった。

「真宮くん、ありがとう。これでテストもバッチリだよ!!」

「だろ?お前も頑張ったんじねーの?」

隣に座っていた真宮くんは私の肩に腕を回し耳の上あたりを優しく撫でた。横顔を見ると優しい眼差し…。クルーズパーティーの夜の優しい彼を思い出したとき、ふと目が合う。そしてお互い惹きつけ合うように視線が繋がり心臓の鼓動が速くなる。ここだけ切り取られて別の世界にいるような不思議な感覚…。

 …どうしよう。目を逸らせない。

「ねぇ。それって2人とも見つめ合ってるの?僕、やきもち妬いちゃうんだけどー。」

図書室の机の下からニョキッと古賀くんが顔を覗かせた。
一瞬で現実に戻り真宮くんから少し離れる。

「別にそんなんじゃねーよ。」

「ふーん。」

「テストに向けて勉強を見てもらってたの。」

「ふーん。」

何となく気まずい…。

「なんだよ古賀、用事があってきたんじゃねーのか?」

「あぁ、そうそう。ミス聖麗学園の真宮くんにインタビュー!」

「そーいえば、去年もそんなインタビューあったなぁ。」

「早速質問です。血液型は何ですか?」

「B。」

「誕生日は?」

「2月14日」

「バレンタインじゃん!得意な教科は何ですか?」

「英語。てか、去年と同じ質問じゃね?前回の使えよ。」

古賀君の質問に淡々と答えていく。

「あはは、去年のデータは個人情報のため昨年度末に破棄しておりまーす。最近ハマっていることは?」

「クラスから古賀を追い出すこと。」

「えぇーっ!それってハマってることなのー?ひどいなぁ~。まじめに!」

「AIロボット作り。」

「すげぇ~!」

「大したことねーよ。」

「では最後の質問です!好きな異性はいますか?」

「…。」

一瞬見られた気がした…けど、気のせい?

「好きな異性はいますか?」

古賀君はニヤニヤしながら真宮くんを見つめる。

「その質問、去年はなかったぞ?」

「早く答えて~。好きな異性はいますか?」

「…いる。」

「その人は誰ですか?」

「はっ!?」

「ねぇ~、答えてよ~。」

「馬鹿、騙されねーぞ!そんな質問ねぇだろ?」

「あ、ばれちゃったー。ざんねーん!インタビュー答えてくれてありがと~。僕の琴乃にあまり近づかないでね~。」

質問が終わると古賀くんはアッという間に去っていった。

「古賀くんっていつも元気だよね…。」

「んだよ、あいつ。騒々しいな…。」

「真宮くんって好きな女の子いるんだ。」

「…ぁあ。いる。去年、偶然出会って一目惚れした。」

いつになく真剣な顔して言う。

「告白とかしないの?」

「タイミングみてするつもり。」

「そ…そうなんだ。」

「心配しなくても大丈夫。俺、絶対にフラれないから。」

そういうと私の頭にぽんっと手を置いた。

「何その自信!?フラれても慰めないからねっ!」

 …なんだろ。なんとなくモヤっとする。

真宮くんとの勉強会はこの日で終了し、テストへと挑んだ。
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