花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
テスト期間が終わったその週末、それぞれの寮のちょうど中間地点は学校なので待ち合わせは学校にし、約束どおりみんなで水族館へ出かけた。
咲良さんや深雪さんの私服姿はもう何度も目にしているが、男子メンバーの私服を見るのは初めてだったのでとても新鮮だった。
学校から公共交通機関を使い水族館へ向かう。電車は少しだけ混雑しており、揺れるたびに他の乗客に押される。

「琴乃。こっちおいで」

古賀くんが私の肩を抱き自分の方へと引き寄せた。

「ここなら守ってあげられる。」

電車の壁面部分に私を立たせ、古賀くんは他の乗客側に立ち壁になってくれた。

「ありがとう。」

あまり身長の高くない私は混雑した電車などではいつも埋もれていしまい苦労していた。なので、古賀くんの気遣いはとてもありがたかった。

「琴乃の私服初めて見たけど似合ってて可愛いね。」

耳元で囁く古賀くんの言葉に顔が赤くなるだけで何も返せなかった。恥ずかしくて、下にうつむくことしかできない。

「琴乃って香水着けてるの?僕、この香り好きだな。」

「何もつけないよ。シャンプーとかの匂いかなぁ?」

「ふーん。この香り嗅いだら、めちゃくちゃ琴乃を抱きしめたくなった。」

「ごめん、それは無理。」

「あははっ。残念。じゃあ、もっと匂い嗅いでいい?」

「それってセクハラじゃない?ふふっ。」

他のみんなとは少し離れた距離になってしまったが、他の乗客に潰されることなく快適に目的の駅まで乗車することができた。
水族館へ到着すると入口でみんなで写真を撮った。水族館は子供の時に来た以来だったので、とてもテンションが上がった。
イルカショーの時間を確認し、管内に記されている順路の通りに進む。
熱帯魚エリアは明るくトロピカルで深海魚エリアは暗がりのせいか少し不気味に感じた。
クラゲのエリアはまるで自分も一緒に漂っている気分になり、女子三人でクラゲポーズで写真を撮った。
真宮くんは仕事の件で度々電話がかかってきており、その度にグループから少し離れたところに移動をしていた。
柳くんから聞いたのだが、テスト期間中は一切仕事をしない話になっているので、テスト期間が終わると溜まった仕事が一気に押し寄せるのだという。

 真宮くん、電話ばかりだけど楽しめてるのかなぁ…。

チラチラと電話している真宮くんを見ていると、

「晴翔が心配?」

柳くんが声かけてきた。

「…心配というか、これじゃ、仕事に集中できないんじゃないかなぁ…って。別の日にしてあげればよかったかなって少し思ったの。」

「大丈夫だよ。あいつ嫌なことも無理なことも絶対にしない性格だし!」

「確かに!」

「多分、友達グループで出かける事なんてないから晴翔にとって良い経験なんじゃない?」

柳くんの言うとおりだ。仕事と学校の両立はきっと大変な事だろう。プライベートでみんなで出かける時間なんて頻繁に取れるものじゃない。
< 64 / 113 >

この作品をシェア

pagetop