花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
私たち3人がイルカショーの会場に着いたのが込み始める寸前でちょうど横並びで6人分席を確保できたのは良かった。
しばらくすると咲良さんたちがやってきたので『こっちこっち!』と大きく手を振った。
咲良さんの手にはイルカのぬいぐるみが握られていた。どう見ても柳くんが買ったに違いない。
咲良さんと柳くんの二人の関係は本当にじれったく思うのだが、そこは二人のペースに任せるしかなかった。

 イルカを握りしめた咲良さんが可愛い。

普段大人っぽい彼女がぬいぐるみを握りしめている姿は同性の私から見てもギャップ萌えというやつだった。

「琴乃さん!深雪さん!見て見て!プールにイルカが出てきましたわ!なんて可愛らしいんでしょう!」

興奮して席から立ちあがりイルカを指をさす。咲良さんのこんなにはしゃいだ姿は初めてみた。今は絶対に咲良さんの方が可愛い気がする。

「ほらほら、咲良。落ち着いて。」

柳くんが咲良さんを座らせた。イルカショーが行われている30分間、咲良さんはまるでアイドルグループのライブに来ているように大興奮だった。

最後にお土産コーナーで6人お揃いでイルカの3色ボールペンを買った。咲良さんのおすすめはイルカのチャームだったが、男子3人がつける場所がないというので、実用性を重視し3色ボールペンになった。
深雪さんは彼氏である先輩にクッキーのお土産を買っていたので、私も父と母用に日持ちのするチンアナゴマシュマロを買った。婚約者の分も買って父に渡してもらうべきなのだろうか…。と一瞬頭に浮かんだが、どこの誰かもわからない人にお土産を買うのものもなぁ…。と思い、買うのを止めた。
お土産屋さんから出て邪魔にならないところでみんなを待っていると、

「琴乃、はいこれ!」

「え!すごくかわいい!!」

「僕とお揃い!ペンギン好きでしょ?」

古賀くんが手のひらサイズのペンギンのぬいぐるみをくれた。

「ありがとう。」

婚約者がいるのにこんなに良くしてもらってすこし罪悪感を感じた。

「じゃあ、俺からも。」

真宮くんに頭にポンと紙袋を乗せられた。
中にはペンギンのマスコット型のエコバッグが入っていた。

「ありがとう。」

真宮くんからもペンギングッズを貰ったので、たった今感じていた罪悪感が薄まった。

 …私の罪悪感ってペラいな。

「こないだ話してた好きな子には何か買ったの?」

古賀くんがニヤニヤしながら真宮くんに聞く。

「買ったよ。絶対に気にいるやつ。」

「好きな子の事よくわかってるんだね。」

「まぁな。」

 真宮くん、好きな子に何か買ったんだ…。
 どんなものを買ったんだろう?

私が貰ったエコバッグのように生活染みたものではなく、女の子が好きそうな可愛い小物とかだろうか?それともお揃いで使えるマグカップとか?絶対に気にいるやつって、その女の子のことよく見てるって事なんだろうな…。
気になり出したら止まらなくなってしまった。
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