花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
「真宮、僕さぁ、真剣に琴乃が欲しいんだよね。あまり邪魔しないでくれる?」

そんなセリフ、恥ずかしいから私の前で言わないで欲しい。それに真宮くんには他に好きな子がいるのだから邪魔している訳では無いと思う。

「こいつも言ってたけど、婚約者がいるんだ。付き纏うのは迷惑だと思うぞ。古賀のやってる事は気持ちの押し付けじゃん。」

「押し付けじゃない。琴乃にその婚約者より好きになってもらう。そんな事言うなら真宮こそ琴乃に付き纏うなよ。真宮の好きな子って…」

「真宮くんの好きな子は去年知り合った人なんだって!真宮くんと私はただのクラスメイトだよ。」

「何それ、意味わからないんだけど。」

古賀くんは真宮くんが私のこと好きだと思っているらしい。

「ごめん琴乃、僕、ちょっとトイレに行って頭冷やしてくるよ。」

「うん。」

古賀くんが離れていく背中を黙って見つめた。

「何か、古賀くん勘違いしてたみたいだね。真宮くんも私と婚約者のこと気遣ってくれてありがとう。」

「…別にそんなんじゃない。古賀のことは気にするな。」

真宮くんは私に近づくと、私の頭を引き寄せ自分の頬に付ける。そのあと、頭にキスをしていたのだが私からは見えず気付かなかった。

 アメリカ生活が長いからスキンシップが濃いのかなぁ?
彼なりに慰めてくれてるってことだよね?

「真宮くん?」

「…ごめん。アイツが戻ってきたら行こう。」

戻ってきた古賀くんは私に一言謝ると、普段の古賀くんに戻っていた。真宮くんとは気まずいのか暫くの間、目も合わせていなかったが柳くんたちと楽しそうに話をしていた。
帰りの電車は真宮くんがずっとそばにいてくれたので、行きと同じく押し潰されずに帰宅できた。

「ねぇ、真宮くん。」

沈黙が続くのが嫌で何か話さなくちゃ。と声をかけた。

「ん?」

「エコバッグありがとう。大事に使うね。」

「あぁ。」

「好きな子には何を買ったの?」

「えっ?…ひみつ。」

あの優しい顔をして笑った。きっと、好きな子の事を思い浮かべるとこの優しい表情になるのかもしれない。

 この顔、好きだな…。

いつもこの表情を向けられていると思うと、真宮くんが好きな女の子が羨ましいと思った。
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