花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
副会長がオーダーしてくれたケーキはマルタの形をしたブッシュドノエルでチョコレートの家やサンタが置かれていてとても可愛いらしく、甘さもちょうど良くて美味しかった。今年一年の振り返りを語りだす古賀くんに『忘年会みたいね。』と副会長が突っ込んだ。何故か生徒会室に置いてあるオセロやジェンガのゲームをしていると、あたりはあっという間にに暗くなっていた。

『ブブッ』

ブラザーのポケットに入れていたスマホが震えた。知らないメールアドレスからのメッセージだった。普段なら知らないメールアドレスからのメッセージは決して開かないのだが、お父さんの会社のドメインだったのと、メッセージの件名を見て躊躇わず開いた。

『件名:ここで君を待つ。君の婚約者より』

メッセージには写真が1枚添付してあり、校内に設置された大きなクリスマスツリーが写っていた。

「琴乃ちゃん、どうしたの?」

スマホを見て驚いている私に会長が声を掛けた。

「コレ…。」

みんなに届いたばかりのメールを見せた。

「琴乃ちゃん!急いで行かなきゃ!」

「行かれた方が良いですね。」

「うん、ここは良いから行っておいで!」

「ありがとう。行ってみる!」

自分の荷物をまとめると写真に写っていたクリスマスツリーがある中庭を目指し急いだ。

 『ここで君を待つ』って突然どうしたんだろ。何で急に私と会う事にしたのかしら??

いくら悩んでも答えは出ない。待っていると言うのであれば直接理由を聞いてみようと思う。
中庭に近づくとツリーのイルミネーションが点灯しており、とても綺麗だった。きょろきょろ周りを見渡すがツリーの側には人影は一切なかった。

 どこにいるの?

写真の場所と間違えていないかスマホ取り出してもの前にあるツリーと見比べてみる。
写真のツリーには先端に飾られた星のそばに校章があった。なので、学校内のツリーである事は確かだ。ツリーの隣にガゼボも写っているので間違いなく中庭のツリーだ。

 どこかに隠れてるの?

ツリーの周りをぐるっと一周してみたが誰もいなかった。ツリー隣にあるガゼボに入ると、ベンチに白い箱といつものブーケが置いてあった。ブーケにはいつものメッセージカードが付いている。ガゼボのベンチ座りメッセージカード開いてみる。

『会える日まで待っていて。君の婚約者より。』

 会える日って一体いつよ…。

ガゼボから1人クリスマスツリーを見上げると、ため息が出た。生徒会のみんなを置いて急いで来たのに…。会えなかった…。

「ぅぃ…ウィッシュユぁ…メリ…くり…スマス…。」

今日はクリスマスイブ。ツリーを見ながら口ずさんでみるが1人で歌うクリスマスソングほど寂しいものは無い。会えるかと思った分、相手がいないと分かると残念で悲しい気持ちが溢れ出してくる。去年のクリスマスは家族3人で自宅でチキンとケーキを囲んでプレゼント交換をしていた。そんな事を思い出すと独りぼっちになってしまったような気持ちになり孤独感に襲われ涙が出てきた。

「お前、こんなところに1人で何やってんだよ。」
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