花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
「…真宮くん?なんでここにいるの?」

慌てて涙を拭った。今日は終業式のみなので一般の生徒は午前中に下校している。生徒会のクリスマスパーティは会長が先生に特別に許可を取っていたので下校せずとも注意をされなかったのだ。

「わっ…忘れ物を取りに来たんだよ。ここにツリーがあったの思い出して、偶然、たまたまここに来たんだ。こんな寒いのに外にいたらまた風邪ひくぞ?」

誰がどうみても泣いていた顔をしてただろうに…。真宮くんがその事には触れずにいてくれたのがありがたかった。真宮くんは黙って私の隣に座った。

「婚約者にここで待ってるってメールが来たから急いで来てみたんだけど…。彼はいなくて贈り物だけ置いてあったの…。」

「…ふーん。」

「会えると思ったのに会えなくて、なんか、寂しくなっちゃった。クリスマスの奇跡が起きたのかと思ったんだけどね…。残念。」

「…そっか。」

「真宮くんは好きな子と一緒に過ごせたの?」

「…過ごせた…かな。」

「…良かったね。」

暫くお互いに黙っていると、真宮くんが私の肩に手を回し抱き寄せた。私の好きな彼のシトラスの香りに胸がドキドキする。

「…さっ寒いだろ?俺、体温高いからくっついてろよ。」

「あっ…ありがとう。」

私の隣に置いてある未開封の箱に気づき真宮くんが指をさした。

「そ…それ、婚約者が置いて行ったんじゃねーの?あ…開けないのかよ。」

「あぁ、まだ開けてなかった。」

箱を開けてみると、オフホワイトのカシミヤのコートが入っていた。コートにはフードがついており袖口とフードの輪郭に白のファーがついていた。

「かわいい…。」

「着てみれば?似合うんじゃね?」

「…うん。」

学校指定のコートを脱ぎ、箱から出したばかりのコートを羽織ってみる。カシミヤなので肌触りがとても気持ち良く暖かかった。

「どぉ?似合うかな?」

真宮くんの前に立って、くるりと一回転してみる。

「お前にぴったりだよ。…似合う。」

「ありがとう。」

照れているのを隠しながらも褒めてくれた真宮くんの気持ちが嬉しかった。

「ほったらかしにされてなくて良かったんじゃねーか?」

昼間、真宮くんに言った言葉を思い出した。
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