花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
2月も後半になると2年生も卒業式に立ち会うので練習や学年末テストで忙しくなる。
深雪さんの彼である保険委員の先輩は卒業後にイタリアへの留学が決まっているそうで、卒業後は先輩と会えなくなると悲しんでいた。父親の仕事を継ぐために勉強しておきたいことがあるようで深雪さんも仕方ないと納得しようと努力していた。
私が知る唯一の3年生である生徒会長と副会長はそのまま聖麗学園の大学へと進学するとこの間クラスに遊びに来た古賀くんが言っていた。同じ敷地内に建つ小中学校とは異なり、大学は遠く距離が離れた場所にあるので今までの様に簡単に会えたなくなってしまうのが残念だった。
一時、婚約者ではないかと疑ったことがあるが、面倒見の良さから私にとってはお兄さんの様に頼れる存在になっていた。
同じく副会長の砂金先輩もだ。砂金先輩は普段は口数が少ないがいつも良きタイミングで適した言葉をかけてくれていた。
知り合いの少ないこの学校で頼れる存在が居なくなるのは卒業というおめでたいことにも拘わらず心が下向きになってしまう。
真宮くんが体調不良や仕事でアメリカに行っていることろいいことに古賀くんは真宮くんが学校に来ていないことを知ると毎日のように古賀くんがA組に顔をだしていた。
その様子をみた咲良さんは『真宮くんは虫よけスプレーか悪霊除けのお札みたいね。』と笑っていたのだが、いくら笑われようと古賀くんは気にしていない様子なのですごい。
頻繁にクラスに来ると言っても以前ほど露骨に好き好き言ってはこなかったので、こちらとしても来るなとは言えなかった。
「古賀、卒業式は晴翔、学校に来るらしいぞ。」
揉める事予知し柳くんが前もって古賀くんに情報を流す。柳くんなりの警告なんだろう。
「来週には出てくるんだ。もっと休んでりゃ良いのにぃ。あいつ、いっつも僕と琴乃の邪魔してくるんだもん。」
空いている真宮くんの席に座り、頬を膨らませなごら不貞腐れた態度を見せてくる。
「そんなこと言っても晴翔の言うことは間違ってないだろ?琴乃ちゃんには婚約者がいるんだから。」
「親が決めた婚約者だろー。黙って従うなんて琴乃も真面目だよなー。」
「親にはめちゃくちゃ嫌だって言ったんだけど、恋人も好きな人もいないから説得しきれなかったって感じだよ…。親にも事情があったみたいだし…。」
お父さんから婚約の話を出された時は恋人どころか好きな人すらいなかった。
「前の学校で彼氏いなかったのー?こんなに可愛いのに?」
「今まで彼氏何ていたことないよっ!私なんて地味なタイプだから…。モテないよ。」
「ふーん…。それなら僕とやっぱり付き合おうよー。生涯婚約者だけって悲しくない?」
「琴乃ちゃんはモテるけど気付かないタイプな気がするな。」
「えっ?」
「あー…。それ、わかるかも。」
古賀くんが納得して頷いていた。
「柳くんも古賀くんも本当に悲しいくらい私モテないんだって…。」
何で、モテる男子相手にもてない自慢をしているんだろうか…。
チャイムが鳴ると古賀くん急いでクラスへ帰って行った。柳くんが真宮くんは卒業式までの戻ってくると言っていたが、理由は在校生代表の挨拶をするためだった。
学年で一番成績が優秀という理由で先生方からの推薦されたそうだ。
「マジ面倒。」
と言いながらも、この日に合わせてアメリカで仕事を終えて帰国するのを見ると口で言っているほど嫌なわけでもなく、責任感もあるようだ。
あの雪の日。自分の気持ちに気づいてから真宮くんに会うのは初めてだったので、『いつも通り。落ち着いて。』と呪文のように自分に言いながら登校したのだが、実際に本人に会ってみると意外と普通にできた。
「おい、これ、お前にやる。」
自由の女神の人形がついたボールペンを机の上に置かれた。
「ボールペン?」
「晴翔からみんなにお土産らしいよ。」
柳くんが補足を入れてくれた。
「わたくしも頂きましたわ!」
咲良さんがペンを見せてくれた。どうやら、みんなでお揃いになるように買ってきてくれたようだった。
「ありがとう。真宮くん、アメリカに行ったって聞いたけど、ニューヨークだったんだね。」
「あぁ、大抵ニューヨークだ。」
「行きなれてるんだね!私なんて日本から出たことないよ~!」
「あらぁ、それじゃあ、パスポート持っていなくて?3年生になったら修学旅行で使いますわよ!」
「あ、そうだね!必要になるね。琴乃ちゃん、早めに用意しておいた方がいいよ。確か修学旅行は夏休み前だったから。」
「えっ!?修学旅行って海外なの!?」
「海外って言ってもグアムだから数時間の距離だぞ。」
「グアムって数時間でついちゃうんだ!」
「お前、そんなことも知らなかったのか?」
「晴翔は別荘があるから行きなれてるもんな。」
「そうですわね!春休みにみんなで行きましょうよ!」
「…あ、咲良悪い、グアムの別荘はちょっと改装中だ。行くなら来年だ。」
「残念ですわ~。」
「咲良さん、真宮くんの別荘に行ったことあるの?」
「はい、小さいころに何度か。プライベートビーチもあって素敵でしたわ!」
「プライベートビーチっ!?」
海外に別荘がある上にプライベートビーチまで…。やはりお金持ちは庶民とは違う。こっちは日本から出たこともないのに…。
「か…改装終わったらお前も連れてってやるよ。」
「うん、ありがとう。楽しみにいてるね!」
どうせ、社交辞令だろうと思うが、お礼を言うと担任の先生が教室に入ってきた。
「さぁ、卒業式の時間だ。みんなアリーナまで並んで行くぞ~。」
先生が言うと、皆ぞろぞろと廊下へ出て整列をすると卒業式が行われるアリーナへと向かった。
整列しているとき、深雪さんは既に泣き出しそうな顔をしてた。やはり、先輩と離れてしまうのが悲しいようだ。
卒業式が終わりホームルームが終わると深雪さんは急いで先輩のところへと向かった。聖麗学園の制服は学ランではないので第二ボタンをもらう風習はないのだが、その代わり、制服のジャケットの左胸にあるフラワーホールと呼ばれる穴があり、そこに付けている校章のバッヂを好きな子にあげるというのが男子生徒の伝統になっていた。
クラスの深雪さん以外の女子生徒も好きな先輩のバッヂをもらうために何人かホームルームが終わるともうダッシュをしていた。
急ぐ理由のない私は咲良さんたちとのんびり帰りの支度をしていた。
「内田さん、生徒会長が呼んでるよ。」
クラスの女の子にあっちとばかりに指さされた方を見ると、会長がクラスの入り口に立ち手招きをしていた。
「あいつ何でっ…。」
私よりも先に会長のいとこである真宮くんが反応していた。
「なんだろ?ちょっと行ってくるね。」
ホームページの件では用事はないはずだった。一体何だろう?
「まだクラスにいて良かったよ。呼び出してごめんね。」
「いえ、この後、用もないので大丈夫です。」
視線に入った会長の制服のフラワーホールには既に校章はなかった。
「あ、校章なら無事に好きな子に受け取ってもらえたからもうないよ。一言だけ伝えたくね。」
「あはは、色々気になります。」
チラッと教室に視線をやった会長がくすっと笑う。
「あいつの視線すごいな…。」
「えっ?」
「あぁ、いや、何でもない。実はね、君の婚約者が誰かわかったよ。」
「えーっ!?ほんとですか!?いったいどこの誰ですか!?」
「…相手はわかったんだけどね、内緒にしている理由まではわからないんだ。だから僕から教えることはできない。でも、もし今後、婚約者のことで困ったことがあれば俺に連絡ちょうだい。助けになれると思うから。」
「ちなみにどうして私の婚約者が誰かってわかったんですか?」
「うーん、まぁ、俺が生徒会長だったからかな?」
「私も来年生徒会に入ったらわかりますかね?」
「多分、君の婚約者がそうさせないんじゃないかな?正体がばれやすくなるし…。」
あははっと笑っていた。
「じゃぁ、なにか問題が起きて、親にも相談できそうにない時は会長に連絡します!」
「うん、いつでも連絡しておいで。」
「…あの。」
「ん?」
「ちなみに、校章って…。」
「あぁ、なかなか相手にしてもらえなかったんだけど、やっと受け取ってもらえたんだ。彩にね。」
「彩って…。もしかして砂金先輩ですかっ!?」
「そうそう。校章をもらいに来てくれないから俺から渡しにいったよ。はははっ。」
「ダブルでおめでとうございます!」
「ありがとう。じゃぁ、そーゆーことで!」
話が終わると会長はさっさと行ってしまった。
生徒会長である彼の立場で婚約者の正体がわかったという事はこの学校の関係者なのだろうか?
だから編入もすんなり手続きが済んだのかもしれない。
でも、教員のお給料じゃこの学校の学費も送り物の時計も賄いえない。
校長、理事長クラスはみんなおじいちゃんだし…。
近づいたような、離れていったような感じだった。
深雪さんの彼である保険委員の先輩は卒業後にイタリアへの留学が決まっているそうで、卒業後は先輩と会えなくなると悲しんでいた。父親の仕事を継ぐために勉強しておきたいことがあるようで深雪さんも仕方ないと納得しようと努力していた。
私が知る唯一の3年生である生徒会長と副会長はそのまま聖麗学園の大学へと進学するとこの間クラスに遊びに来た古賀くんが言っていた。同じ敷地内に建つ小中学校とは異なり、大学は遠く距離が離れた場所にあるので今までの様に簡単に会えたなくなってしまうのが残念だった。
一時、婚約者ではないかと疑ったことがあるが、面倒見の良さから私にとってはお兄さんの様に頼れる存在になっていた。
同じく副会長の砂金先輩もだ。砂金先輩は普段は口数が少ないがいつも良きタイミングで適した言葉をかけてくれていた。
知り合いの少ないこの学校で頼れる存在が居なくなるのは卒業というおめでたいことにも拘わらず心が下向きになってしまう。
真宮くんが体調不良や仕事でアメリカに行っていることろいいことに古賀くんは真宮くんが学校に来ていないことを知ると毎日のように古賀くんがA組に顔をだしていた。
その様子をみた咲良さんは『真宮くんは虫よけスプレーか悪霊除けのお札みたいね。』と笑っていたのだが、いくら笑われようと古賀くんは気にしていない様子なのですごい。
頻繁にクラスに来ると言っても以前ほど露骨に好き好き言ってはこなかったので、こちらとしても来るなとは言えなかった。
「古賀、卒業式は晴翔、学校に来るらしいぞ。」
揉める事予知し柳くんが前もって古賀くんに情報を流す。柳くんなりの警告なんだろう。
「来週には出てくるんだ。もっと休んでりゃ良いのにぃ。あいつ、いっつも僕と琴乃の邪魔してくるんだもん。」
空いている真宮くんの席に座り、頬を膨らませなごら不貞腐れた態度を見せてくる。
「そんなこと言っても晴翔の言うことは間違ってないだろ?琴乃ちゃんには婚約者がいるんだから。」
「親が決めた婚約者だろー。黙って従うなんて琴乃も真面目だよなー。」
「親にはめちゃくちゃ嫌だって言ったんだけど、恋人も好きな人もいないから説得しきれなかったって感じだよ…。親にも事情があったみたいだし…。」
お父さんから婚約の話を出された時は恋人どころか好きな人すらいなかった。
「前の学校で彼氏いなかったのー?こんなに可愛いのに?」
「今まで彼氏何ていたことないよっ!私なんて地味なタイプだから…。モテないよ。」
「ふーん…。それなら僕とやっぱり付き合おうよー。生涯婚約者だけって悲しくない?」
「琴乃ちゃんはモテるけど気付かないタイプな気がするな。」
「えっ?」
「あー…。それ、わかるかも。」
古賀くんが納得して頷いていた。
「柳くんも古賀くんも本当に悲しいくらい私モテないんだって…。」
何で、モテる男子相手にもてない自慢をしているんだろうか…。
チャイムが鳴ると古賀くん急いでクラスへ帰って行った。柳くんが真宮くんは卒業式までの戻ってくると言っていたが、理由は在校生代表の挨拶をするためだった。
学年で一番成績が優秀という理由で先生方からの推薦されたそうだ。
「マジ面倒。」
と言いながらも、この日に合わせてアメリカで仕事を終えて帰国するのを見ると口で言っているほど嫌なわけでもなく、責任感もあるようだ。
あの雪の日。自分の気持ちに気づいてから真宮くんに会うのは初めてだったので、『いつも通り。落ち着いて。』と呪文のように自分に言いながら登校したのだが、実際に本人に会ってみると意外と普通にできた。
「おい、これ、お前にやる。」
自由の女神の人形がついたボールペンを机の上に置かれた。
「ボールペン?」
「晴翔からみんなにお土産らしいよ。」
柳くんが補足を入れてくれた。
「わたくしも頂きましたわ!」
咲良さんがペンを見せてくれた。どうやら、みんなでお揃いになるように買ってきてくれたようだった。
「ありがとう。真宮くん、アメリカに行ったって聞いたけど、ニューヨークだったんだね。」
「あぁ、大抵ニューヨークだ。」
「行きなれてるんだね!私なんて日本から出たことないよ~!」
「あらぁ、それじゃあ、パスポート持っていなくて?3年生になったら修学旅行で使いますわよ!」
「あ、そうだね!必要になるね。琴乃ちゃん、早めに用意しておいた方がいいよ。確か修学旅行は夏休み前だったから。」
「えっ!?修学旅行って海外なの!?」
「海外って言ってもグアムだから数時間の距離だぞ。」
「グアムって数時間でついちゃうんだ!」
「お前、そんなことも知らなかったのか?」
「晴翔は別荘があるから行きなれてるもんな。」
「そうですわね!春休みにみんなで行きましょうよ!」
「…あ、咲良悪い、グアムの別荘はちょっと改装中だ。行くなら来年だ。」
「残念ですわ~。」
「咲良さん、真宮くんの別荘に行ったことあるの?」
「はい、小さいころに何度か。プライベートビーチもあって素敵でしたわ!」
「プライベートビーチっ!?」
海外に別荘がある上にプライベートビーチまで…。やはりお金持ちは庶民とは違う。こっちは日本から出たこともないのに…。
「か…改装終わったらお前も連れてってやるよ。」
「うん、ありがとう。楽しみにいてるね!」
どうせ、社交辞令だろうと思うが、お礼を言うと担任の先生が教室に入ってきた。
「さぁ、卒業式の時間だ。みんなアリーナまで並んで行くぞ~。」
先生が言うと、皆ぞろぞろと廊下へ出て整列をすると卒業式が行われるアリーナへと向かった。
整列しているとき、深雪さんは既に泣き出しそうな顔をしてた。やはり、先輩と離れてしまうのが悲しいようだ。
卒業式が終わりホームルームが終わると深雪さんは急いで先輩のところへと向かった。聖麗学園の制服は学ランではないので第二ボタンをもらう風習はないのだが、その代わり、制服のジャケットの左胸にあるフラワーホールと呼ばれる穴があり、そこに付けている校章のバッヂを好きな子にあげるというのが男子生徒の伝統になっていた。
クラスの深雪さん以外の女子生徒も好きな先輩のバッヂをもらうために何人かホームルームが終わるともうダッシュをしていた。
急ぐ理由のない私は咲良さんたちとのんびり帰りの支度をしていた。
「内田さん、生徒会長が呼んでるよ。」
クラスの女の子にあっちとばかりに指さされた方を見ると、会長がクラスの入り口に立ち手招きをしていた。
「あいつ何でっ…。」
私よりも先に会長のいとこである真宮くんが反応していた。
「なんだろ?ちょっと行ってくるね。」
ホームページの件では用事はないはずだった。一体何だろう?
「まだクラスにいて良かったよ。呼び出してごめんね。」
「いえ、この後、用もないので大丈夫です。」
視線に入った会長の制服のフラワーホールには既に校章はなかった。
「あ、校章なら無事に好きな子に受け取ってもらえたからもうないよ。一言だけ伝えたくね。」
「あはは、色々気になります。」
チラッと教室に視線をやった会長がくすっと笑う。
「あいつの視線すごいな…。」
「えっ?」
「あぁ、いや、何でもない。実はね、君の婚約者が誰かわかったよ。」
「えーっ!?ほんとですか!?いったいどこの誰ですか!?」
「…相手はわかったんだけどね、内緒にしている理由まではわからないんだ。だから僕から教えることはできない。でも、もし今後、婚約者のことで困ったことがあれば俺に連絡ちょうだい。助けになれると思うから。」
「ちなみにどうして私の婚約者が誰かってわかったんですか?」
「うーん、まぁ、俺が生徒会長だったからかな?」
「私も来年生徒会に入ったらわかりますかね?」
「多分、君の婚約者がそうさせないんじゃないかな?正体がばれやすくなるし…。」
あははっと笑っていた。
「じゃぁ、なにか問題が起きて、親にも相談できそうにない時は会長に連絡します!」
「うん、いつでも連絡しておいで。」
「…あの。」
「ん?」
「ちなみに、校章って…。」
「あぁ、なかなか相手にしてもらえなかったんだけど、やっと受け取ってもらえたんだ。彩にね。」
「彩って…。もしかして砂金先輩ですかっ!?」
「そうそう。校章をもらいに来てくれないから俺から渡しにいったよ。はははっ。」
「ダブルでおめでとうございます!」
「ありがとう。じゃぁ、そーゆーことで!」
話が終わると会長はさっさと行ってしまった。
生徒会長である彼の立場で婚約者の正体がわかったという事はこの学校の関係者なのだろうか?
だから編入もすんなり手続きが済んだのかもしれない。
でも、教員のお給料じゃこの学校の学費も送り物の時計も賄いえない。
校長、理事長クラスはみんなおじいちゃんだし…。
近づいたような、離れていったような感じだった。